INTERVIEW

INORAN Special Interview 「過去・今・未来」

音楽は時間とともに姿を変える。完成した瞬間に過去へと離れていきながらも、現在の視点に触れたとき、また新しい意味を帯びる。今回の「ニライカナイ」リレコーディングは、その「今の自分」を確かめるための試みだ。今回のインタビューは9月中旬、アルバム制作を終えた直後に実施された。

Makiko Yamamoto

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ADVNETURE KING×InoTube InoTube×ADVNETURE KING「ニライカナイ-Rerecorded-」Special Interview

ADVNETURE KING×InoTube スペシャルインタビュー「音楽と人生」

Interview/ text: Makiko Yamamoto
Video: Yuta Anzai

ADVENTURE KING (以下:AK)

2015年に初めてINORANさんにADVENTURE KINGにご登場いただいてから、今年で10年となりました。いつも本当にありがとうございます。

INORAN

ありがとうございますって、え、10年しか経ってないの?

AK

10年しか経ってないんです。

INORAN

あっという間だね。もっといるような気がします。濃いですね。

AK

本当に!いつもありがとうございます。
そして、アルバム『ニライカナイ』完成おめでとうございます。今のお気持ちをお聞かせいただけますか。

INORAN

作り終えた直後は、過去作に類を見ないくらい、ものすごく達成感があった。でも、(インタビュー時点で)まだ発売前なんだけど、最近改めて聴いたりすると、すごく過去のものに感じる。みんなには申し訳ないんだけど。でもそのくらい音楽って、止まってないんだと思う。そこにあるものなんだけど、そこに“いる”ものじゃない気がしてきて。そんな感じですね。

AK

それは、自分が日々進化しているから?

INORAN

どうなんだろう、自分が変化しているのかどうかは分からない。でも、向き合い方が日によって違うし、その揺れとか揺らぎが作用するんじゃないかな。物を見たり聴いたりするときって。

AK

今回、リレコーディングをしようと思った理由を聞かせてください。

INORAN

LUNA SEAで『MOTHER』と『STYLE』を再録して、長いツアーを経験したんだけど、それは単に過去のものをリメイクするだけじゃ終わらなかったんだよね。(その過程で)想像もしていなかった物語がものすごくたくさんあって、それを経験できて、宝物になった。だからリメイクって、過去を振り返ることだけじゃないんだなって思ったんだよね。
今年の2月に東京ドームのグランドファイナルが終わって、自分でも「ソロワークスで同じような経験をしてもいい時期なんじゃないか」って思って、今作の制作を考え始めた。『ニライカナイ』は「好き」とか「また見たい」とか、そう言ってくれる人がすごく多かったアルバムだから、僕の心にも残っていて、というのが理由かな。

AK

リレコーディングはどのようなアプローチをされたのでしょうか。

INORAN

昔と今、歌は同じようには歌えないし、真似もできないし、根本的に違うんだよね。だから当然違って聴こえるとは思う。
あとはもう“やったとこ勝負”。ギターを録り直すときに、どういうものが浮かぶか。変えてやろうって意識もなかったし。過去の作品のトラックを聴いて呼び起こされた感情を素直に入れるだけ。計算してやったというより、聴いて湧き上がるものをそのまま紡いでいった感じ。フレーズも音色も変わっちゃうのは当然で、変わらないわけがない。その範囲で、新しく浮かんだものがあれば素直に閉じ込めた、そんな感じですね。

未来と今を何に映すか

AK

2007年と今作、それぞれ異なる良さがありますね。

INORAN

やっぱり当時のバンドメンバーと今のバンドメンバー、それぞれが録音しているから、音もバランスも違う。例えば歌が透けるようだったら、メンバーが濃くしてくれたり、コントラストをつけてくれたり。今回もそうなってると思う。

AK

今作はライブでも一緒に回られるu:zoさんとRyo Yamagataさんと一緒に制作されました。

INORAN

そう。だから作業もスムーズだった。彼らはいつもスマート。自分はあまり理想を決めず、好きにやってもらえればいい、ってスタンス。彼らのことを信頼してるからね。

AK

制作中、2007年当時を回顧することはありましたか?

INORAN

例えば、久しぶりに家の中で卒業アルバムを見つけて懐かしい…みたいな感覚ではなくて。回帰する感じじゃない。あくまで「未来と今を何に映すか」。作り終わった後に「ああ、そうだったな」って思うことは出てきたけど。サウンド面はそう。でも歌詞はね、聴いてくれる人にもう少し近く感じてもらいたかった。自分自身も感情を少し豊かにして歌った。だから当時の想いではない部分もあるかもしれないけど、思い出したこともありましたね。

AK

どの曲も前向きな歌詞ですね。

INORAN

基本的に前向きしか書けないんだよね(笑)。当時もすごくポジティブだったし、今もそうだけど、そんな感じはしてるかな。やっぱり、自分が生み出した音楽ではハッピーになってほしい。根源にそれがあるから、曲も歌詞もポジティブになるんだと思う。

『ニライカナイ』というタイトルの意味

AK

『ニライカナイ』は沖縄の言葉で理想郷とか神々の住む場所を意味する言葉ですが、なぜこのタイトルを?

INORAN

当時、沖縄や、ニライカナイって言葉に出会ってしまったんだよね。その頃に出会った人も含めて。だからそれらを素直に落とし込んでいった。そうやって素直に入ってきたものには意味があると思ったから。

AK

アルバムタイトルがありきで曲を書いたのでしょうか。

INORAN

違うよ。曲を書いて「いいタイトルないかな」って思ったときに、ニライカナイって言葉を教えてくれた人がいて、「それいいじゃん」って。

AK

INORANさんにとってのニライカナイ(理想郷)とは?

INORAN

ずっと探し続けるもの。この人生の中で、辿り着くとは思わない。辿り着きたいけど、多分着かない。なぜならそれは“理想”だから。一瞬一瞬、形を変えていく…場所ではなく、自分の理想の姿。

音が持つ力とそこに込める想い

AK

イノランさんの音楽って、聴くとすごく透明感があって。悩んでいてもすっと心が晴れてニュートラルになれるんです。音楽って本当に力があるなって。

INORAN

そうですね、音楽ってやっぱり力があるよね。僕はやってる側だから思うけど、(もし音楽が)なかったら人生退屈だと思うよ。(音楽は)本当に地球が生み出した素晴らしいもののひとつだと思う。
誰かが言ってたんだけど、映像に音楽をつけることで、観てる人がその映像を“自分ごと”のように感じられる。そういう脳の働きになるんだって。だから無音の状態だと記憶に残らないことでも、音楽とともに感じると、それが鮮明に印象深くなる。それくらい不思議な力…脳に直接働きかけるような力があるんだよね。

AK

そうですよね。そして肉声や人が作り出した音、つまり生の波動って作り手の感情やエネルギーがとても伝わってくる気がしますよね。『ニライカナイ』を聴いた時も目に見えない“何か”を感じて、心が軽くなって、「これが波動か」って思いました。

INORAN

うん。自然の音でも、芸術でも、絵画でも、美術品でも、作り手が何を映し出そうとしてるか、何に希望や敬意を持っているか、それは全部入ってる。それが響いて心を良くしてくれる。音楽もそのひとつ。

最初から変わらない“曲を通して伝えたいこと”

AK

2015年から大きなインタビューを3回させてもらっていますが、イノランさんは毎回「自分の曲が人の心に寄り添う存在でありたい」とおっしゃっています。

INORAN

最初のきっかけがそうだったからだと思う。(音楽に)拾ってもらったのか救ってもらったのか分からないけど、僕をここまで生かしてくれてるものだから。きっかけになれる人がいてくれたら嬉しいし、音楽を通じて繋がれるものがあればいいと思う。

AK

イノランさん自身も音楽に助けられたことはありますか?

INORAN

助けられてますね。出会ってしまったから。それが幸せだったか不幸だったかは分からないけど、運命的な出会いをした。今こうなってるということは、そういうことなんでしょうね。

AK

以前「音を作り出す苦悩はありますか?」とお伺いしたときに、「自然に生まれてくるから苦悩はない」とおっしゃっていましたよね。

INORAN

ないですね。常に探してるし、やめないから。だから苦悩はない。

好きなことで生きるということ

AK

好きなことで生きていけるのは幸せなことですよね。

INORAN

そう。好きなことだからね。でも、それは本来そうあるべきなんじゃないかな。愛というより恋に近い。強引な時もあるし、今でもまだ「恋してるんだ」っていう感覚。だから「もっとこうしてみよう」とか「もっといろんなとこ行こう」と思える。

AK

好きであれば努力も努力と思わないですもんね。

INORAN

お互いに喜び合いたいじゃない。そのときは出して出して出して…っていう恋のニュアンス。でも愛ってもっと深くて、体同士がはまって調和するようなもの。音楽はその手前のワクワクに近いんじゃないかな。

AK

面白いです。30年以上、そのテンションで続けられているんですね。

INORAN

今のところいけてるね(笑)。でも歳を重ねると、無理やり探さなきゃいけないことも増えた。若い頃は時間が無限にあると思ってたから、何でもできた。今は時間を見つけないとやれない。同じ時間なのに思考が全然違う。だからときめきを探すこともある。アプローチが変わったのかな。

AK

気が早いですが、再来年はソロ30周年ですね。

INORAN

そう。それまで音楽をやっていられればいいな。分からないけどね、好きと嫌いで揺れるから。心に素直に正直でいたい。でも大切な人が周りにたくさんいるから、いい意味で人生の責任を持ってやっていきたい。

AK

気が早いですが、再来年はソロ30周年ですね。

人生の冒険を続けるということ

AK

2019年のインタビューでは「人生は旅」というテーマでした。「終わらない旅はないけど、その過程を楽しむことが一番の思い出になる」とおっしゃっていましたね。

INORAN

そうだね。自分から行くのもいいけど、引き寄せることも大事。心の揺らぎを受け入れること。旅ってハプニングやリズムを満たすもので、自分のリズムに気づくことでもある。移動というより、心を震わせるものとの出会いが大事だと思う。

AK

ADVENTURE KINGには学生や若者が悩みを投げかけてきます。その声を聴いていると、自分で壁を作ってしまう人が多いように思います。

INORAN

人によって違うよね。(その壁を)壊さなくてもいい人もいるし、壊すのに時間がかかる人もいる。ひとつ言えるのは、後悔よりも「やらなかったら後悔してた」、つまり、「やってよかった」という経験が多い。失敗でも成功でも学びがある。飛び出してみることが大事。

AK

INORANさんも失敗されることありますか?

INORAN

失敗は多いよ。でも失敗とは思わない。リベンジしたいことはあるけどね。全て学びだと思ってる。運命をある程度受け入れる。そこに旅や冒険があるから。

AK

最近の旅や冒険は?

INORAN

最近はあまりしてないな。でもこのアルバムを作ること自体が、これから現れる冒険の準備だと思う。一回戻って「俺はこんなに変わった」とか「これはもう持ってないスキルだな」と確認して、また新しい山に登る準備。ツアーもそのひとつ。未来のために戻る。懐かしさじゃなくて、タイムリープでもなくて、未来のために。

AK

すごく腑に落ちました。ツアーを経て、また違う景色が見えるんでしょうね。

INORAN

そうだね。もっと鮮やかに見えたらいいな。自分を褒めてあげたいからね。人にはそうしてるけど、自分にはなかなかできない。でも音楽にはそうしてる。多分それがカルマなんだろうね。正直に生きてる風でも…“風”でいいじゃん(笑)。そうだね。もっと鮮やかに見えたらいいな。自分を褒めてあげたいからね。人にはそうしてるけど、自分にはなかなかできない。でも音楽にはそうしてる。多分それがカルマなんだろうね。正直に生きてる風でも…“風”でいいじゃん(笑)。

AK

最後に、ADVENTURE KING読者の皆さんへメッセージをお願いします。

INORAN

ADVENTURE KINGは本当に大好きな場所。僕だけじゃなくて、たくさんの方の言葉や想いを読んだり観たりして、僕自身も勇気づけられています。僕はこうやって冒険を続けていますが、経験したことのないものは心を乱すこともある。でもその乱れを大切にして、いい意味に変えて、周りにいい波動を与えてほしい。それは冒険しないと感じられないものだから。だから皆さん、冒険はしましょう。いつもありがとうございます。

「INORANにとって、人生とは到達点なき永遠に続く探求のプロセスだ。「失敗」を「学び」として受容し、運命をあるがままに受け入れる姿勢は、人生を自己成長のための冒険と見なす哲学の表れだ。今回の再構築は、懐古ではなく、来たるべき「冒険の準備」として、過去を未来への動力源に変容させるプロセス。このインタビューに込められた彼のメッセージは、自己の存在を肯定し、前進し続けることを僕たちに教えてくれた。

INORAN

1997年よりソロ活動を開始。

1stアルバム「想」では世界的アーティストDJ KRUSHとタッグを組み、当時まだ日本ではメジャーではなかったhip hopを取り入れた最先端の音楽を表現し、大きな注目を集めるソロ活動の口火を切った。

近年では、英国で絶大な人気を誇るギター・ロック・バンドFEEDERのベーシストTAKA HIROSEとの共作となったシングル「Hide and Seek」(2011年10月5日発売)でオリコン・ウィークリーチャート初登場10位を記録。

また、ソロ活動中には、洋楽ファンからも支持の高かったFAKE?のメンバーとしての活動や、香港ではGUN’S AND ROSESのオープニング・アクトを務めたり、LUNA SEAの河村隆一らと結成したTourbillonでは,日本武道館でデビューライブを飾る等精力的な音楽活動を展開した。

その他、2008年には映画「《a》symmetry」の音楽プロデュースや、日本最大級のファッションショー「KOBE COLLECTION」での楽曲提供及びモデル参加等、活動の場を拡げている。

海外に於いても特にアジア圏での人気は高く、2008年には台湾及び韓国で開催された大型ロック・フェスティバルへ出演、さらに台湾、香港での単独公演も成功させている。
2012年、自身のソロ15周年イヤーでは、9枚目のソロ・アルバム「Dive youth, Sonik dive」にて全編英詞のバンドサウンドを展開、そのアルバムを携え初のWORLDTOUR(アジア及びヨーロッパ合計8カ国公演)も行い、海外を視野に入れた本格的な活動をスタートさせた。
並行して、2012年11月よりLUNA SEAの活動再開により日本のみならず世界的にも大きな話題を振りまいている。

2013年には、ソロとしてはFAKE?の10周年記念ライブ(2/23@渋谷O-°©‐EAST)の出演、そして15周年イヤーを締め括るZepp DiverCiry公演(3/23)、ROCK IN JAPAN FESTIVALの出演、9月の全国ツアー、FEEDER のTAKA等と結成した多国籍バンド Muddy Apesとしては2ndアルバム発売(7/3)、 Fuji Rock Festeval 出演、FAKE?との2マン東名阪ツアー、更にLUNA SEAはシングル2枚と13年5ヶ月ぶりのオリジナルアルバムの発売等、目まぐるしく駆け抜けた年となった。

追記として、2010年にフェンダー社とのエンドースメント契約を締結し、日本人アーティスト初のシグネイチャー・ジャズマスターを発表した事で大きな話題を呼ぶ。約2年の時を経て、2012年には2弾のシグネイチャー・モデル”INORAN JAZZMASTER #2 LTD, Masterbuilt by Dennis Galunszka”が遂に完成の運びとなり、世界に向けて活動の幅を着実に広げている。

 

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