コロナウイルスが世界を恐怖に陥れている昨今、ますます健康への意識が高まっている。
そんな中、インド政府はインドに古くからある医学、アーユルヴェーダの研究機関を新たに設立、より体系的、専門的な研究を進めると発表した。
実際、インドにおいて2020年のアーユルヴェーダ製品の輸出量は前年比を大きく上回っている。
また、筆者もインドでアーユルヴェーダトリートメントを受けた際、心身ともに著しい回復を得た経験を持つ。
今回はアーユルヴェーダの聖地、ケララ州の医師へのインタビュー他、現地が今後強化している「メディカル・ツーリズム」にも触れたスペシャル版を掲載する。
コロナによって心身のバランスを崩している多くの人へ、この記事を届けたい。
Photo,text: Makiko Yamamoto
Cooperation: Embassy of India,Tokyo(Japan)
2020年より始まったコロナウイルスによる世界的パンデミックは一向に終息の兆しを見せない。
そんな中、2020年10月、インド首相はAYUSH省が開催している5回目のアーユルヴェーダデーにおいて、2つの国立アーユルヴェーダ機関を設立すると発表した。
インドにおける「アーユルヴェーダ」という伝統医学の豊かな遺産を強調するとともに、その効果は世界中で認められており、COVID-19の世界的大流行の時代には、その有益で健康とウェルネスが最高の特性をもたらすことでさらに認識されていると彼は述べた。
実際、コロナ期間中にアーユルヴェーダ製品の需要が世界中で急速に増加、輸出は昨年比約45%伸びたという。
この2つの「アーユルヴェーダ最高研究機関」の設立が示すものは、もはやアーユルヴェーダは治療の一つの選択肢ではなく、世界における健康とウェルネスの中心的存在になるということだ。
これらの研究機関は、世界保健機関(WHO)からも世界クラスの医療機関としての期待を寄せられている。
The Center of Ayurveda, Kerala
インドのアーユルヴェーダの中心地の一つ、南インド・ケララ州。
ここはアシュタンガヨガ発祥地でもあり、世界中からヨギーや健康志向の人々があつまる土地だ。
「God’s Own Country(神が所有する土地)」とのあだ名を持つケララ州は、その恵まれた環境と治安の良さで旅人からの人気も高い。
筆者は、2019年にヨガのライセンスRYT200取得のため1ヶ月滞在した際、現地でアーユルヴェーダのクリニック「Ojus Spine Care」を訪問、サンギース医師による2週間のトリートメントを受けることで、心身ともに状態が著しく回復、その効果に感動を覚えた。同年末、今度はアーユルヴェーダのトリートメントを受けるためだけにケララを再訪、同医師に集中してトリートメントを施してもらった。
今回、コロナウイルスの蔓延で日本でも「免疫力向上」が重要視されるようになった。しかしコロナウイルスは人に感染するだけでなく、人々の心も蝕んだ。コロナウイルス蔓延による度重なるロックダウンは経済の破綻をもたらし、多くの人はビジネスの機会を損失し、職を失った人も少なくない。
事実、日本における2020年の自殺者はリーマンショック後、初めて増加に転じ、2万1081人に上った。これは令和2年2月〜令和3年4月までの国内コロナ死者数9,854人の2倍以上の数となる。
そこで、筆者が考えたのが、人間本来の力を呼び覚まし、心身ともに健康にするアーユルヴェーダこそ、今我々にとって必要なトリートメントではないかということだ。
上記の理由から、今年3月、ケララを再訪し、現地を視察するとともに、サンギース医師へのインタビューを敢行した。
Interview with Dr.Pillai
ADVENTURE KING編集長 山本(以下:Yamamoto)
まずアーユルヴェーダについて教えてください。
Dr. Sangeeth S Pillai B.M.A.S (以下:Dr.Pillai)
アーユルヴェーダはインド古来の知識であり、治療というよりも生活習慣、ライフスタイルの一つであり、生命科学なのです。
アーユルヴェーダにはもちろん治療や薬もありますが、それ以外にも食事法、季節による生活規則、そういった生活全てに関わっています。大きな視点でいうと、何もインドだけのことではありません。
理念に則った健康的な生活を送っていること、それが“アーユルヴェーダ的生活習慣”といえ、それは世界中の健康的な生活を送っている人全てを包括します。
Yamamoto
つまり、アーユルヴェーダは一つのライフスタイルということですね。
Dr.Pillai
そうです。トリートメントの手法ではなく、文化でありライフスタイルの一つなのです。古代インドでは、人々はそれぞれの地域に則した生活習慣を送っていました。それにより、今の我々よりもっと健康的でしたし、モクシャ(Moksha:サンスクリット語で永遠、解脱)により近い存在でした。
私の意見ですが、モクシャとは「幸せ」の定義の一つだと思っています。
つまり人生の旅が終わり、死ぬときに、幸せで穏やかだというのがモクシャの意味だと私は思うのです。
アーユルヴェーダはそんな目的と観念をもった一つのライフスタイルであり、それを日常の生活習慣の規則に落とし込んだものが、“日常のアーユルヴェーダ”です。
その生活習慣は土地によって異なるので一つの方法が正しいとは限りません。
先も申し上げたとおり、気温や湿度によってアーユルヴェーダ的生活規則も変わってくるのです。そして、体質や季節によってもそれは変わります。
夏に重いものを食べると、消化しづらく体に負担をかけますが、冬は体温を上げるために栄養価の高いものを食べる必要があります。
栄養価の高い食べ物を食べると、身体は消化のためたくさんのエネルギーを使います。同時に体温も上昇するのです。そういった相関関係がもっともシンプルなアーユルヴェーダの法則といえるのです。
アーユルヴェーダの考え方では、ものを3つのコンセプトに分けて考えます。
ドーシャ(体質)もヴァータ、ピッタ、カッパの3つに分かれています。
ヴァータは動きの機能、ピッタはエネルギー機能、カッパは安定性を司ります。
例えば、歩くことはヴァータ、消化はピッタ、身体の安定性はカッパというように。
その3つのファクターは我々の身体だけでなく、万物に見つけることができます。
Yamamoto
その3つのファクターはそれぞれ連動しているんですね。
Dr.Pillai
そうです。DNA構造のように、それぞれは密接につながっています。それは一つの法則なのです。ドーシャは、その人が住んでいる土地や体質、両親から受け継いだ遺伝的要素によってそのバランスが異なります。
例えば、南インドでは、肌が褐色であり、体型もすこしふくよかなのが特徴です。なぜなら、南インドはより水の要素(カッパ)が強いエリアだからです。ここでは地元の人の95%がすこしふっくらしていて褐色です。それはこの土地に則した外見だと言えます。
Yamamoto
すこしふくよかというのは、ここではいいことなのですね。
Dr.Pillai
はい。我々は、カッパに則した食生活をしています。お米などの炭水化物を多く摂取します。
それはここに住む我々には普通のことなんです。
もしヨーロピアンが来て、我々と同じくらいの炭水化物を摂取すると、その人は病気になるでしょう。
なぜなら、ヨーロピアンの体質はピッタ寄りだからです。ピッタは、気性が荒く、支配欲が強いという気質を象徴します。彼らの歴史から考えてもそうだと言えませんか。ピッタは戦士のような性質を持っているのです。
そして、乾燥地帯はヴァータの性質を持ちます。そこでは人はより身体を鍛え上げようとします。
Yamamoto
例えばボディビルディングの聖地、カリフォルニアのような地域を指しますね。わかる気がします。
Dr.Pillai
ヴァータに住む人はより活動的になり、様々なアクティビティを求めます。
そして体格がよく、手足も長いという特徴がみられます。たまにヴァータの人が「私にはどんな生活習慣が向いていますか」と聞いてくることがありますが、私は「好きなアクティビティを思う存分しなさい」とアドバイスします。ヴァータはアクティブであるべきなのです。
アフリカ出身のスプリンターが多いのも、彼らがヴァータの性質を持っているからだと言えます。
もしアクティブな気質をもつヴァータの人にタイピングの仕事を頼んでも、彼らはなかなかこなすことができないでしょう。
逆に、ケララの人がITの仕事に従事する割合が多いのはカッパの気質を持っているからです。ピッタの人は椅子に長く座っていることに向いているのです。
Yamamoto
土地以外の観点で、どうやって自分のドーシャを割り出すことができるのでしょうか。
Dr.Pillai
それを正確に知るには、色々なファクターから判断する必要があり、我々医師のように勉強や経験をたくさん積まなくてはいけません。
けれども簡単に言うのであれば、体型、脈、などから知ることができます。
脈拍からの測定は長い訓練が必要です。勉強はもちろん、瞑想を行わないと脈を正確に診ることはできません。
シンプルな脈の動きから、問題や滞りを感じとるのはまるで天文学をやっているように奥が深いことだと私は思います。
Yamamoto
現在、日本ではたくさんの人がストレスに悩まされています。コロナウイルスの蔓延による、経済の停滞や自粛などが原因で、心身のバランスを崩しているんです。人々は職を失い、中には自殺をする人もいます。
Dr.Pillai
悲しいですね。でも土地のドーシャから判断すると、納得します。
なぜなら、日本人はその気候と地理的要因により、ピッタとヴァータ寄りの性質だからです。ピッタ、ヴァータはストレス耐性が弱い性質なのです。
でもここケララはストレス耐性の強いカッパの性質です。もし私に今の状況を聞いたら? 私はコロナで昨年クリニックを一時的に閉鎖し、一年間仕事がない状況です。たまに施術にくる方もいますが、それも以前と比べたら極端に少ないですし、この大きなクリニックを維持するには全く十分ではありません。
でも僕は自殺しようなんて考えない。なぜなら、カッパは「安定」の性質を持っているからです。つまり私はストレスをマネジメントすることに長けているのです。
ヴァータの人は考えすぎます。ですからストレスを感じやすいのです。
Yamamoto
ストレスに対するアーユルヴェーダ的解決法はありますか。
Dr.Pillai
あなたはヨギーだからわかると思いますが、何よりも瞑想が一番効果的です。とにかく瞑想をたくさん行ってください。
またプラナヤマ(呼吸法)の練習をしましょう。
それでもストレスを感じる場合、本格的なアーユルヴェーダのトリートメントに入ります。額にオイルを垂らすシロダラや頭部にオイルを塗りこむシロバスティなど、たくさんの治療法があります。
またアーユルヴェーダの薬を処方することもできます。
もちろんそれら治療にはドクターの的確な診察が必要です。
若い人からなぜアーユルヴェーダの治療をすぐにしてくれないかと言われることがあります。
先にも話した通り、アーユルヴェーダは「健康的な生活習慣」を指します。
ですから、治療の前にまず生活習慣を正す必要があるのです。
診察に来た人に、生活習慣の規則を伝えると、それよりも治療ですぐに治して欲しいと言われます。そういう彼らはアーユルヴェーダの本質を理解していないのです。
現代人は食や環境などたくさんの「汚染」された環境に暮らしています。ですから体内には多くの毒素が溜まった状態でいます。
まずは体内の毒素を排出することが必要なのです。適切な「代謝」が毒素を排出させます。毒素排出の唯一の解決策がアーユルヴェーダなのです。
そして我々は様々なストレスにさらされています。そのストレスを緩和させることができるのもアーユルヴェーダなのです。
いま我々はたくさんのライフスタイルの選択肢があります。
でもそのどれも永久的に健康でいられるとの保証はありません。
また病気の治癒には化学的な薬を処方し、すぐに効果を得ようとします。
そういった薬から解放されたいのであれば、アーユルヴェーダを選択するべきなのです。
そしてあなたがもし長生きをしたい、自分の身体を再生させたいと思っているのであればアーユルヴェーダの生活に切り替えるべきだと断言します。
私が思う、アーユルヴェーダのもっとも興味深く美しい点は、「通り一遍の治療法ではない」ということです。
例えば、2人の患者さんが同じ病気・疾患で来たとしましょう。でも、私が提案する治療法は、2人ともに異なるものなのです。
それは彼らのドーシャや身体のコンディションによって変わってくるのです。
同じ「背中の痛み」でも、原因は人によって異なります。それを脈診などで正確に探しだし、どのドーシャが痛みを生み出しているかを診断し、解決策を提案します。
そこが西洋の医学とは異なる点であり、私がアーユルヴェーダを愛している点なのです。
Dr.Pillai
また、同じ治療法を違う疾患に行うこともあります。
なぜなら、基本的なトリートメントは5つしかないからです。
パンチャカルマというトリートメントで、パンチャとは5という意味です。
嘔吐法(ヴァマナ)、下剤法(ヴィレーチャナ)、浣腸法(ヴァスティ)、点鼻法(ナスヤ)瀉血法(ラクタモクシャ)の5つです。
全ては医師による的確な判断のもとに行われるので安全ですし、パンチャカルマによって、毒素を排出し、ヒト本来の健康な身体に戻ることができます。
アーユルヴェーダのトリートメントはその人のその時のコンディションによって変わりますので「この疾患にはこれ」といった汎用的な治療とは違うのです。
なので、この薬を1年服用してください。といった長期的な投薬はしません。
1年の間にヒトの身体の調子も変化するからです。
食事、行動、短期的な投薬、また身体と心、魂のバランスを整えることも大事です。
Yamamoto
心と魂の違いはなんですか。
Dr.Pillai
心は考えが浮かんでくる場所、魂はエネルギーを生み出す場所です。
Yamamoto
その3つのバランスを取るのは大事だと分かりますが、どのようにバランスを取ればいいのでしょう。
Dr.Pillai
ヨギーであればヨガやプラナヤマ(呼吸法)、瞑想を勧めますが、そうでない人にはハードルが高いと感じるでしょう。
なので、深呼吸を意識してくださいとアドバイスします。
深い呼吸は心と身体のバランスを整え、魂を活性化します。
Yamamoto
アーユルヴェーダによって我々の免疫力は高まるのでしょうか。
Dr.Pillai
もちろんです。
免疫力低下の原因は、体内に毒素が溜まることです。身体の色々な部位が毒素を排出しようと無理をすることで免疫力も低下します。
身体が酸化すると、毒素がたまりやすくなります。
アーユルヴェーダには抗酸化物質を生み出す様々な天然由来の薬があります。
抗酸化物質を体内に取り入れ、毒素を排出することで免疫力は自然と上がります。もちろん免疫力を高める様々なハーブの薬もあります。
また、先ほども話しましたが、免疫力を上げるトリートメントとしてはパンチャカルマも有効です。
アーユルヴェーダの世界だけでなく、様々な宗教で習慣的にデトックスを行っているのをご存知ですか。例えばイスラム教のラマダン(断食)、キリスト教のイースター、これらの時期に彼らは一時的に断食を行います。
なぜなら、消化器官を休め、体内から毒素を排出するためです。
消化器官をいたわることは、免疫力向上に直結していると言えます。
消化器官は体内の温度調整もしています。そこを適温に保つことがとても大事です。
世界中で「食前酒」の習慣がありますよね。
それは、食事をする前にお酒を飲んで身体を温め、消化を促す目的があるのです。
私は寒いエリアの人々には食前に強めのお酒を勧めています。
例えばロシア人は食前にウォッカを少し取ることで、消化器官に熱を発生させることができます。
逆にここ、ケララの人にはお酒はおすすめしません。特に夏にお酒を飲むのは身体に非常に悪影響を与えます。
ここ南インドの夏はとても暑く、我々の身体は熱を持った状態です。
そこにさらにお酒を入れて熱を追加することは死をも招きかねないと言えます。
Yamamoto
なるほど、土地には土地の食習慣があるのですね。理解してきました。
Dr.Pillai
そうです。お酒も目的を持って飲用することで、その役割を果たすのです。
ですが、ずっと飲み続けるというのは、本来の目的から外れることになるので要注意です。
Yamamoto
私も気をつけないといけませんね。
Dr.Pillai
あなたはお酒を飲むのですか。
Yamamoto
ワインだけですが、味が好きなので飲みます。
Dr.Pillai
そうしたら、より食べなければいけませんね。もしお酒だけを飲むと、身体が酸化します。肝臓や痔の病気が予想されます。
How Ayurveda effects our mind?
Yamamoto
以前こちらでトリートメントを受けた時、体調の変化とともに精神の変化も感じました。長期のトリートメント終盤では感情が溢れてきて、エモーショナルになってしまった記憶があります。
Dr.Pillai
それは問題ありません。アーユルヴェーダのトリートメントの過程でよく起こることです。身体が元の状態に戻ろうとするとき、当然身体だけでなく精神にも影響します。
そのプロセスで大切なのは、その感情を抑えないことです。
それらの衝動は体内にたくさん存在します。それを解放して体内から出すことがとても大切なのです。
その衝動は、ゲップやおなら、尿によっても排出することができます。
ですから、それらを我慢しないことは身体にとってとても大切なことなのです。
感情の解放を我慢すると頭痛などが始まり、病気へと変わっていくのです。
ですから、泣いたり怒ったり笑ったりすることをおさえつけてはいけないのです。
泣いたり怒ったりするのは憚られる人もいるでしょう。
私の場合、ヘルメットを被ってバイクに乗っているときに泣いたり怒ったりします。ヘルメットで隠れているので誰にも聞かれずに感情を解放できるのです。
そうして心を落ち着ければ、子供や妻にとって良き父であり良き夫であることができるわけです。
Yamamoto
なるほど。以前脈診をしていただいたときに、心の問題にも言及されましたが、それはどのようにしてわかったのでしょうか。
Dr.Pillai
脈診はアーユルヴェーダの重要なファクターです。
脈の中には、カッパ、ヴェーダ、ピッタ、それと5つの神経が存在し、そのバランスを見ていくのです。
臓器の脈もあります。
手首の脈をみることで、内臓も含め、頭からつま先までが可視化されるのです。
そして、私が心に問題があるといったことですが、何も私は占い師ではありません。
脈拍から心臓の部分にドーシャのインバランスを感じたからです。
もし子供のころに何かトラウマがあれば、それは心のレベルのドーシャに乱れが生じるので、身体のことだけでなく、感情についても、脈診から情報を得ることができるのです。
でも私もいつも脈診をするわけではありません。私の体調が脈診に向いていないときもありますし、そのときは脈診でなく問診にします。
正確な脈診をするには、瞑想をたくさん行う必要があります。瞑想は深いレベルまでの脈診を可能にします。
もし自分の波動と相手の波動が合えば、このように深いレベルまで見ることができますが、いつもそれが可能とは限りません。
Yamamoto
今日の私はどうでしょうか。
Dr.Pillai
ちょっと見てみましょう。今は午後3時ですね。この時間はピッタからヴァータへと移行する時間です。ですから、脈からヴァーダ寄りの兆候がでているのは普通ですね。あなたの脈もそうなっていますよ。
Yamamoto
1日のうちで、時間によってもドーシャが変わるのですね。
Dr.Pillai
そうです。もう少し深く見ていきましょう。内臓レベルまで。
背中の下のほうにストレスを感じていますね。
Yamamoto
そうです。実は今朝トレーニングをして、腰のあたりに少し痛みを感じています。
Dr.Pillai
それが脈に出ています。
臓器レベルを見るには、ここが身体、ここが首、これが足をみる脈拍です。
そして、ここが腰。あなたのエネルギーの滞りを腰の脈に感じましたよ。もう少しみてみましょうか。
今日あなたは何も食べてない?
Yamamoto
少し、フルーツを食べたくらいでしょうか。
Dr.Pillai
やはりあまり食べていないですね。少しお腹にガスがたまっているようです。
Yamamoto
そうなんですか。
Dr.Pillai
腸の部分にガスを示す脈がでていますよ。
このように脈診にはセオリーがあります。そして我々医師は瞑想をする必要があります。集中力が必要だからです。瞑想をして集中力を高めることで、正確な脈診が可能になるのです。
ヨガのアシュタンガ=八支則(はっしそく※)の中にも、ディアナ(瞑想)、ダーラナ(集中)とあるように、それらは我々にとってとても必要なものなのです。
※
①ヤマ(Yama)/禁戒 日常生活で行なってはいけない5つの心得。
②ニヤマ(Niyama)/勧戒 日常生活で実践すべき5つの行い。
③アーサナ(Asana)/坐法
④プラーナヤーマ(Pranayama)/呼吸法・調気法
⑤プラティヤハーラ(Pratyahara)/感覚の制御
⑥ダーラナ(Dharana)/集中・精神統一
⑦ディアナ(Dhyana)/瞑想
⑧サマーディ(Samadhi)/三昧、超意識、悟り
Dr.Pillai
瞑想によって得た集中力は不可能と思えることも可能にします。
ヨギーが空中を飛んでいたり、水上に浮かんでいたり、熱い地面を歩く写真や文献をみたことがあるのではないでしょうか。
何も彼らが特別な人なのではありません。あなたでもできるでしょう。瞑想練習の積み重ねによって可能になるのです。
少しずつ少しずつですがね。
Yamamoto
私もできるだけ毎日瞑想を練習しようとしています。でもただ目をつぶっているだけだな……という時もよくあります。“瞑想的な時間”、また、瞑想とはどんなものだと思われますか。
Dr.Pillai
瞑想的な瞬間、それは人によってそれぞれ異なります。
ただ集中をすること。それを意識しながら練習を重ねるしかありません。
瞑想は、その中で生まれるのです。誰も「瞑想を教える」ことはできません。自分で習得するしかないのです。もし瞑想ができないと思うのであれば、ただ何かに集中をしてみてください。
一つのこと、何か集中できることを見つけてそれに集中するのです。
Yamamoto
では最後の質問ですが、アーユルヴェーダ医療と、西洋医療は共存することはできると思いますか。
Dr.Pillai
実際、アーユルヴェーダと現代医療は共存できるとは言えません。つまり、同じ患者が同時にアーユルヴェーダと現代医療を受けることはおすすめしないということです。
なぜなら、両者の治療に対する「軸」が違うからです。
Yamamoto
なるほど。では例えば、化学療法中のがん患者がアーユルヴェーダ治療を受けたいと訪ねてきたら、あなたはなんと答えますか。
Dr.Pillai
まず最初にお話しておきたいのが、長い歴史によって育まれたインドのアーユルヴェーダの叡智は海外からの侵略などの歴史の流れとともにその半分ほどが失われてきました。今我々が知ることができるのはたった50%程度といえます。
アーユルヴェーダは主流の治療法ではなくなり、今ではいくつかのエリアでしか特別な治療は受けられません。
たくさんの薬や治療法が失われたのです。
ですから、今はすべての病気を治すということは断言できません。
もちろんアーユルヴェーダにはガン治療もあります。でもすべてが残されているわけではないのです。浄化などの治療法はもちろん有効ですが、過去ほどの知識はないのです。
ですから、化学療法を受けているガン患者には、化学療法後のアフタートリートメントがいいと思います。
化学療法によってダメージを受けた体を元の状態に戻すというものです。
今でも、実際多くの病院でガン患者へのアーユルヴェーダ治療を行っていますが、医師も患者も先に話したことを理解した上で治療に取り組むべきだと考えます。
毎年ここにもガンを患った患者さんがいらっしゃいますが、私は同様の説明をしています。
お互いに相応のリスクを承知した上でなら問題はないのです。
これはアーユルヴェーダに限ったことではなく、現代の化学的治療法でも同じですが、両者が副作用などについてよく理解した上で治療に取り掛かるべきなのです。
Yamamoto
アーユルヴェーダには副作用というものはあるのでしょうか。
Dr.Pillai
あります。基本的にはハーブを使用するのですが、その他、メタルなどの鉱物由来の薬がありますので。
通常はそれら鉱物の使用には細心の注意をはらって少しずつ処方します。稀に処方量が多すぎるとそれは副作用を発生させます。すべてはバランスを保つことが大事なのです。
Yamamoto
注意深くあるべきですね。
Dr.Pillai
アーユルヴェーダ治療を受ける4つの掟をご存知ですか。
1、 知識が豊富で柔軟な思考ができる医者であること
2、 治療に関して情熱があるアシスタントがいること
3、 効果的で混ざり気のない適量な薬であること
4、 従順な患者であること
これらのうち一つでも欠けていると適切な治療はできないのです。
Yamamoto
先生のクリニックにもトリートメントで訪れる人がたくさんいますよね。ここケララにはメディカルツーリズム(医療目的の旅行)目的で長期滞在される方が多いと聞きます。
Dr.Pillai
そうですね。ロシアやヨーロッパを中心に、世界各地から長期滞在でアーユルヴェーダの治療にきています。毎年いらっしゃる方もたくさんいらっしゃいます。日本人もたくさんいらっしゃいますよ。
だいたい1ヶ月ほど滞在して、パンチャカルマ(21日間の解毒療法)をしたり、目的に応じたトリートメントに専念しつつ、治療のない日はケララの豊かな自然を楽しみ、心も身体も整えて帰国されますね。
ケララは気候もよく、のんびりとした環境なのでリゾートバカンスついでに治療される方も多いですよ。
通常は観光ビザでいらっしゃいますが、メディカルビザもあり、それらのビザを活用して長期滞在されています。(※2021年4月現在両ビザは停止中)
Yamamoto
コロナ終息後はさらにメディカルツーリズムが盛んになりそうですね。
Dr.Pillai
そうですね。私も一つ研究を終えたところで、現在はクリニックの拡張を検討しています。
日本の皆さんのご健康をお祈りしています。そして終息したらぜひアーユルヴェーダトリートメントを体験しにいらしてください。
Medical Tourism in Kerala
ケララはメディカルツーリズムで最も有名なデスティネーションの一つだ。
ケララ州は、年間を通じて穏やかな天候、世界クラスの施設を備えた先進的な病院、主要な分野を専門とする有名な医師、訓練を受けた準医療スタッフと技術者、インターナショナルエアポートを兼ね備え、医療観光に理想的だと言える。
さらに、ケララは、高水準の衛生状態が維持され、高品質のリゾートとホテル、医療パッケージの競争力のあるコスト、リラックスした休暇に理想的な場所を備えた、すでに十分に発達した観光地なのだ。
今回の、コロナウイルスの蔓延により、世界中で免疫力の向上とヘルスケアへの関心が高まる中、ケララ州のアーユルヴェーダ、ヨガ、ウェルネスツーリズムは、パンデミックの後、さらなる高い需要が見込まれる。
ケララ州観光局長のラニ・ジョージ氏は、「アーユルヴェーダと若返り療法はドイツ人とフランス人の間で大きな需要があり、パンデミック後の時代にアーユルヴェーダから利益を得る立場にあると」と述べ、さらに以前、ウェビナーを開始した観光大臣のカダカンパリー・スレンドラン氏は、「ビーチ、美しい丘、バックウォーター、アーユルヴェーダのあるケララ州が、パンデミック後のヘルスケアが最優先される最も人気のある目的地になる」と述べている。
The greatest destination for tourists, Kerala
ヨーロッパにおいては「一度は訪れたい世界の名所50選」に選ばれたことがあるなど人気の観光地として有名なケララ州。
「ケララ」とは現地の言葉でヤシの木を指す。
言葉通りヤシの木が生い茂る、まるで桃源郷。
美しい海、暖かな気候、日本人の口に合う南インド料理、地元の人々も穏やかで治安も良いのが特徴だ。
ここ、ケララでは時間を忘れてのんびり過ごすことをおすすめしたい。
朝日を眺め、昼はのんびり昼寝をして、夕方カフェで一休み、ディナー後はビーチで星や月を眺める……そんな贅沢なライフスタイルを叶えることができる。
水が豊かな場所なので、お腹を壊す不安なく、トロピカルなフルーツや南インド料理を楽しめ、切りたてのフレッシュココナッツウォーターは50円程度で販売しているほど。
ボートで川をゆったりとくだる、名物のバックウォーターはぜひ体験してもらいたい。
サーフィンやジェットスキー、パラグライダーなどのビーチアクティビティも充実しており、行動派も満足だ。
また、もちろん気をつけたいこともある。
ビーチエリアではレストランや野外のクラブでよくパーティーをしているが、旅に慣れていないなら参加しないほうがいいだろう。
また、道端で親しげに声をかけてくる人にも要注意。
必要がないのであれば話さないほうが賢明だ。
治安がいいと言っても、ここは海外。相応の注意を払って旅の思い出を楽しいものにして欲しい。
今回、コロナ禍中におよそ40日間の滞在をした。
この一ヶ月半でわかったのは、ケララの人々は自然とアーユルヴェーダに則った生活習慣をしているということ。
例えば、ケガや病気をしたら化学の薬は飲まずにアーユルヴェーダ薬局へ行き、天然の薬で治す。
また、新鮮な食べ物を食べる、よく水を飲む、体調が悪い時は食べずに自然治癒力を高めるなどだ。
そのように「人間本来が持つバランス」を常に意識している。
また、ケララという土地が育むハーブや食物の力、美しい自然の魅力も改めて感じることができた。
まさに神に守られた地域、ケララ州。
メディカルツーリズムであれ、観光であれ、バカンスであれ、移住であれ……
ここには訪れる者を虜にする何かがある。
ふたたび訪れるときには、どんな冒険が待ち構えているのだろうか。
いまから楽しみで仕方がない。
ケララ州観光情報はこちら
ケララ観光局
www.keralatourism.org