COLUMN

LIFE IS A JOURNEY #012

Kensaku Kakimoto

真実は虚構の中に紛れ込んでいる

『The Unknown life of Jesus Christ / NICOLAS NOTOVITCH』

「The Unknown life of Jesus Christ / NICOLAS NOTOVITCH」
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初めてイスラエルを訪れた時、僕は、信じてきた世界や価値観をひっくり返すことになる。
これまでに80か国以上の国を旅してきた僕は、曲がりなりにも世界の肌触りは理解してきたつもりだ。

しかし、僕は、何も知らなかったのだ。僕の信じてきた歴史や学んできたものは薄っぺらな虚構でしかなかった。例えば、世界で1番のベストセラーである”聖書”がどうやって作られて今日に至るのか。
イエスキリストという人物が一体、何者であるのか。彼がいつ生まれて、どんな環境の中で育ち、どんな景色をその目で捉え、何を考え、どんな信念を抱き、人々の前に現れ声をあげたのか。そして、何を思いながらこの世を去ったのか。世界で一番有名な人間と言っても過言ではないであろう、その人物のことを僕は何も知らなかったのだ。

その歴史の旅に一歩踏み込むと、そこには神と人間との激しい攻防が見える。民族のプライドと生き残りをかけた残酷な運命の糸は複雑に絡み合い、数千年たつ今もなお終息しない。それは人類全体の壮大な旅であり、裏切りの歴史とも言えるだろう。

そんな中で語り継がれている物語は、僕は真実だとは思えない。虚構の物語だ。

しかし、残念ながら真実は確かにある。

人類に残された最大の謎の一つであるイエスの人生を思うことは、人類の真実の歴史を旅することに等しい。

この本は、1887年にニコラス・ノートヴィッチというジャーナリストが書いたルポだ。
題目の通り、誰も知らないイエスの人生を描いている。それは、これまでに語り継がれているものとは大きくかけ離れている。僕は複雑に絡み合った人類の運命の糸を手繰り寄せるために、この本に書かれている北インドのカシミールにあるヒミスという寺院を訪れた。イエスと仏教?この決して混じり合わない、いや混じり合わせてはいけない組み合わせに何を思うだろうか。

厳しい環境の中にある人々の生活はこの2000年の中でおよそ大きく変化はしていないように思える。山の上に寺院があり、山頂の岩の上に瞑想するための仏塔がある。この物語が真実だとしたら、彼は、ここを歩いたのか。この景色を見たのか。今、僕が立っているこの場所に。

歴史に学べという言葉があるが、多くの場合、学ぶ前に歴史を紐解く必要があるように思う。
過去は、その時々で都合よく塗り替えられる。正義は一方的に勝者にもたらされる。
こうして生きている今も、真実は一部の人間によって隠され、都合よくねじ曲がっていく。
そう、真実は虚構の中にある。今日(こんにち)のように。

柿本 ケンサク

Profile:柿本ケンサク

映像作家・写真家。映画、コマーシャルフィルム、ミュージックビデオを中心に、演出家、映像作家、撮影監督として多くの映像作品を手がける。柿本のフィルム作品の多くは、言語化して表現することが不可能だと思われる被写体の体温や熱量、周辺に漂う空気や気温、 時間が凝縮されている。対照的に写真家としての活動では、演出することを放棄した時に、無意識に目の前にある世界の断片を撮り続けている。
2016年ACCグランプリ他、Cannes Lions International Festival of Creativity、One Show Design、 London International Awards 、New York Festivals、AD STARS、Spikes Asia、 ADFEST、THE Adobe WW Sales Conference Film Festivalなどで数々のAWARDを受賞。日本のみならず欧米、アジアへと活動範囲を広げる。

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