Interview/ text: Makiko Yamamoto
Photo: Taro Washio
Video: Hiro Mitsuzuka
Hair & Make: Miku Nakamura
Styling: Satomi Shirata
Location: Hanazono-jinja Shrine
マーティフリードマン
Marty Friedman
Q今回は神社での撮影でしたがマーティさんは神社に親しみはありますか。
A特に頻繁にくるわけではないですが、日本にまだくる前に、他のバンドの日本来日ツアーの様子を見ていたら、みんな浅草の雷門の前で写真を撮っているんですよね。だから僕も初来日の時はそこで撮りたくて仕方がなかった。初来日のときは雷門で写真を撮りました。神社にくるといつもそのときの気持ちを思い出します。
Q初来日は1990年頃でしたよね。
Aそうですね、1989年です。
Q日本にお住まいになられてからは10年ですよね。日本はどうですか。
Aいいですよ。これからもずっと日本に住みたいですね。色んな国に行ったことがありますが、住みたいのは日本くらいですね。
Q日本の何がお好きですか。
Aまず安全、食べ物、マナーなど色々ありますが、でも何よりも音楽。日本で聴ける音楽は僕の好みのものが多いですし、日本で作れる音楽も僕が作りたい音楽ですから。
Q日本では若いバンドを中心に色々な方とコラボされていますよね。特に若者に影響与えてらっしゃるなと思います。
A若い方とコラボするのは好きですね。もちろんベテランとご一緒するのも好きですけど、でも若くて感性の強い方々とコラボすると絶対学ぶことがあるし、ずっと自分が成長したければ、新しい経験として取り入れていきたい。若い方々とコラボするのは進化する秘訣だと思います。
Q刺激的なんですね。
A刺激的です。それに自分自身、ずっと頭の中では「僕はまだ15歳」という気持ちです。なぜなら僕は15歳、16歳の頃から今までずっと変わらず“音楽”という同じことをやり続けている。だから若い人に共感することが非常に多いですね。僕はベテランだと言われればベテランなんですけど、音楽に対しての熱意とか、情熱は15歳と変わらないと思いますね。
Qだから笑顔が15歳のような透明感と無邪気さがあるんですね。
Aそうですか(笑)。
Q最初に日本の音楽を好きになった頃と、今とで日本の音楽やロックシーンの違はありますか。
A違いはありますけど、全く悪い方向には行ってないですね。むしろ、どんどん好きになってる、どんどん好きな方向に進化していると思いますね。
僕が邦楽に興味をもった理由は、メロディーのセンスがとても僕の好みのど真ん中だったからなんです。日本の音楽には魅力的なメロディーが多かった。そして、今の方がさらにメロディーが強調され、メロディーをさらに未来的に解釈しているから、どんどん日本らしくなっていると思います。
大昔の日本の音楽はちょっと洋楽のコピーが多かった気がしますね。それを乗り越えたらどんどん日本らしくなって、続ければ続けるほどますます日本らしくなっているので…それが僕の好きな音楽のストライクゾーンになっていて、日本の音楽シーンがさらに好きになっています。
Qアメリカ時代にメタル界を代表するビッグバンドでワールドツアーをされ、世界中の音楽を体感した結果、日本の音楽と一番マッチしたということですよね。ドストライクだったと。
Aそうですね。でもどの国も僕の印象に残っていて、他の国の音楽からも色々吸収しています。アジアだけじゃなくて、南米とかラテン系の音楽の影響もありましたし、インドや中国、中東の音楽にも僕が好きなセンスが入ってて、それらが、全部融合して今の音楽になってます。日本だけじゃないですね。
Q今までの人生の経験の全てが今の音楽に生かされているということですね。
Aそうですね。
Q現在、今の音楽スタイルでの海外公演をされることもありますよね。海外の方は日本的なメロディアスな音楽をどう受け止められますか。
A僕が恵まれてるなと思うのは、昔(MEGADETH時代)から今もずっと応援してくれているファンが全世界に何万人もいるんです。だから海外に行っても自分を知っていてくれるからやりやすいです。
海外ではオリジナルをやるんですが、僕のオリジナルは日本の音楽の影響が多い。それに日本のカバーソングをやるんですが、海外ではそれをカバーソングではなくてマーティが作っている曲と誤解している人もいて、だから僕経由で日本の音楽を知る人が結構います。だからある意味僕は音楽を通して日本と海外の架け橋になってて、それはすごく嬉しいことですね。
みんな、自分が好きなことって人に紹介したくなるじゃないですが、僕がにとっては“どれだけ日本の音楽が好きか”という気持ちをたくさんの人に紹介出来ていて本当に嬉しいです。
Q海外との架け橋…とても意義があることですよね。
A本当にそう思います。そして今後は全世界ツアーなどをさらに大きくしたいです。現在もしているのですが、ほんとに少しずつなので…もっと自分の解釈で、もっと大きな規模で、日本の音楽のセンスをたくさんの方々に伝えたいと思います。
Qまさに音楽大使ですね!話してくださるお顔がとても輝いていてこちらもエネルギーをいただきます。そういえば5年前にお話を伺った時もすごく毎日が楽しい、音楽が楽しいとおっしゃっていたのが印象的です。でも世界的なロックバンドで活躍されていたのに、全てを手放して日本に来ることに対して不安はありませんでしたか。
A当時も今も全く後悔はしてないですね。日本に来るのも、単純に自分の夢を追いかけたという感じで、本当に馬鹿みたいに「日本の音楽が好きだから日本に行くしかないじゃん」という単純な考え方。でも考えてみたらそれは成功の元だと思います。ずーっと何もかも常識を守るんだったら、こんなクレイジーな人生にはならないと思います。“常識”は人生において99%くらいの割合で大事なんですけど、残り1%の“非常識”も同じく大事だと思います。
もし僕が日本に来る前に「日本語も上手じゃないし」なんて冷静かつ常識的に考えていたら「やっぱり日本に行かない方がいい」って思っていたかもしれない。
でも僕は、その瞬間に“単純な15歳の心”だった。日本の音楽が好きで、日本の音楽をやりたいから、「日本語なんてなんとかなるじゃん」って。ちょっと馬鹿で非常識な考え方ですけど、それがすごく良かったです。
Q15歳の向こう見ずな心でチャレンジされたんですね。時には勢いも必要ですね。
A勇気と馬鹿の紙一重ですね(笑)。
ミュージシャンの方々は僕の気持ちがわかると思いますけど、心のどこかではいつも音楽をやりたくて仕方がなくて、音楽を最優先したくなるんですね。
日本に住む前、来日ライブをする度に思っていたのが、「自分が好きな音楽ばかりじゃん!ずっとこの音楽に囲まれたい」と。日本ではどこに行っても日本の音楽に囲まれていて、それが本当に幸せだったんです。だから、日本の音楽を好きな気持ちを最優先に考えた結果「日本では何があっても何とかなる」って思えたんです。
Q「好き」を追求されていて、本当に素敵です。
Aラッキーですね。
Q先ほどの、1%の非常識が成功の元、というのはすごく共感できます。
A人生の大事な転機のときは、非常識になってもいいと思います。
だって心は本来“非常識”のはずですからね。
理性を司る脳みそは“常識”、そして本能を追求する心は“非常識”。だから時には心を追いかけないといけないと思いますね。
もちろん数学者だったらもっと理論的になる必要があると思いますけど、特にアーティスティック系の仕事だったらしっかり自分の心の声を聞かないといけないと思います。
だから僕は日本に来ることに決める時、僕は常識を考えてなかったですね。でも日本に来てから自分の夢は全部成功しているし、次から次へと光栄なことが起こりますし、自分の音楽の夢も叶っていますし、自分が尊敬している方達とも音楽作ったりしているんです。自分の心の声を聞いて良かったなと思います。
Qそして今は日本と海外の架け橋に! 来年2020年には世界中が注目する東京オリンピックですね。なにかそこに向けて取り組まれていることはありますか。
Aそれはもちろんオリンピックで演奏関係が出来たら一番最高ですよね。
でも、オフィシャルな場での演奏といえば、ここ3年連続で東京マラソンの開会式でギターを演奏させていただいていて、それも信じられないくらい光栄なことです。だって僕は、いわゆる“外人”じゃん? それなのに、この日本の最も大きなマラソン大会の一つ、東京マラソンで演奏させていただける。東京マラソンは海外でも有名で、全世界が観ているわけですから。
「その音楽代表がまさか僕?」と驚きましたけど3年連続頼んでいただいて…それが一番オリンピックに近いかなと思っています。
でも実はまだ叶ってない夢があります。
Qマーティさんにもまだ叶っていない夢があるなんて!
A僕の音楽でフィギュアスケートの選手がスケートをしてくれるのが夢ですね。それがオリンピックだったらまたさらに莫大な夢ですが…どんなイベントでもいいので、僕の音楽をバックにフィギュアスケートをしてもらえたら嬉しいですね。そのために、フィギュアスケートに相応しい音楽をたくさん作っています。バラード系など、ぴったりな曲をいっぱい作ってるんですよ。
Qフィギュアスケートのどの点がお好きなんですか。
Aフィギュアスケートは非常に美しいと思いますし、僕の音楽と合うと思っているんです。
僕の音楽はメリハリというか、山と谷をつけながら“感動の瞬間”を目指しているんです。だから僕の音楽の美しい瞬間に、フィギュアスケートの選手が技を決めると、その相乗効果でさらに何次元も上の美しさになるだろうなと考えるだけで鳥肌が立ちます。
Qマーティさんの音楽とフィギュアスケートの融合、まさに新たな冒険です。
Aフィギュアスケートは僕の音楽より全然素晴らしいと思います。でも僕の音楽はフィギュアスケートの世界観にふさわしいと感じています。ですから、これはそのうちに実現できると確信しているんです。