MARTY FRIEDMAN

「人を演奏で泣かせたい」
日本を溺愛するロックスター

Interview, text: Makiko Yamamoto
Photo: Taro Washio

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マーティー氏に初めて表紙を依頼したのが2014年。今回で3回目のインタビューとなる。カバーアルバム「TOKYO JUKEBOX 3」の発売を控え、多忙な彼に貴重な時間を割いてもらい、撮影させていただいた。
彼の純粋さをぜひ感じていただきたい。

Q
アドキン3回目のご登場ありがとうございます。以前のインタビューで「バンド時代、ワールドツアーで日本を訪れた時、憧れの雷門で記念写真を撮った」とおっしゃっていたのが印象的で、今回は浅草での撮影にしてみました。

A
多分外国人はみんなそうだと思うんですけど、“日本といえば雷門”というイメージが強いので、みんな日本に来た証拠として雷門の前で写真を撮ると思います。僕はもう16年も日本に住んでいるので、見方は変わりましたけど、でもこうしてここに来ると最初の頃の気持ちを思い出します。

Q
日本にいると雷門にはあまり来ることないですよね。

A
姪っ子が日本に来たときに案内してあげました。

Q
やっぱり喜んでくれましたか。

A
喜んでいました。日本には他にも色々あるからこれだけじゃないんだよって言いたかったけどね(笑)

Q
10月21日にギターインストゥルメンタルカバーアルバム、『TOKYO JUKEBOX 3』 が発売されますね。
豪華な選曲とロックな解釈にシビれました。

A
今回はオリンピックに向けて、元気が出るような、力になるような、気分が上がるような、という全体的なテーマを目指していました。今回オリンピックは中止になりましたが、近い将来、出来ればオリンピック関係の何かをやりたいですね。コロナ禍での製作だったのですが、とにかく気持ちが落ちている時に、頑張れるような、楽しめるような、テンションが上がるようなアルバムにしたいと思ってつくりました。
僕自身、自分が辛い時には他の人の音楽に癒されている。自分が大変な時に、好きな曲を聞くとストレス発散になるんです。そういう意味で、音楽というのは「魔法」だと思うんです。だから自分の音楽もその効果があればいいですね。

Q

今回の選曲は時代もジャンルも幅広いですね。

 

A

そうですね、選曲は幅広くやりました。今好きな髭男たちとか、LiSAの「紅蓮華」とか、セカオワとか、そういう現代の代表曲がありつつ、定番の90年代とか2000年代の曲とか、色んな時代の代表曲をやりたかったんです。

 

Q

一曲目にZARDの「負けないで」が流れたときはびっくりしつつ懐かしい気持ちになりました。

 

A

オリンピックを考えたら、ピンとくるのは負けないでだった。「負けないで」って誰もカバーしたことないんですよ。でもダメ元でもいいからやろうと思ったんですよね。ハードルは高かったんですけど、とても運が良くて先方の事務所が快諾してくださったので、僕は絶対にがっかりさせないように、自分なりに丁寧に大事に磨いて……まだ世間の反応は分からないですけど、とにかく非常に光栄です。

 

Q

鬼滅の刃の主題歌LiSAさんの「紅蓮華」もとてもキャッチーですね。

 

A

LiSAさんとは一緒にテレビ番組出たことがありつつも、特に一緒に演奏はしたことはなくて。今回は僕が単純にファンだったからぜひカバーさせていただきたいなと。

あの曲はどんな年代の人でもみんな知っているし、色んな人が別な楽器とかで面白くYouTubeでカバーしてるので、僕も逃げ場がない。やるしかない。せめて1回だけ自分なりの解釈で出来たらいいなと思ってて、「僕の解釈はこうなんです」とみんなに聴かせたかった。

Q

すごくカッコよかった。ロックでいて上品だなと感じました。

 

A

上品ですか。ありがとうございます。

人を演奏で泣かせたい。そして鳥肌を立たせたい。それに向けて演奏して……それが目的ですね。僕は何をやってもそれが全て。

日本の音楽にはいつもなぜか「切なさ」があるんですよ。それが大好きで、それを引き出すのが僕の長所というか自信のあるところ。僕は出来ないことが沢山あるんですけど、切なさと喜びを表現することには自信があります。それ以外は駄目な人間ですけど。

 

Q

TOKYO JUKEBOX 2の尾崎豊さんの曲も同じく切なさを感じて印象に残りましたね。

 

A

日本の音楽ってハッピーなのに切ない。

メロディーはメジャーキーなのに切なさが強く伝わってくる。これってなんでなんだろうって。

フォークミュージックもそう。さだまさしさんも、完全にメジャーキーのフォークソングなのに、なんで聴いていて涙が出てくるんだろう。その現象が面白くて仕方がないので、やっぱり日本の音楽は奥深いと感じながら、日々研究しています。

Q

私たち日本人からすると、歌詞の意味を受けて切ないのかなと感じるんですけど、歌詞を取り除いてメロディーだけにしても、確かに切ない感じはありますもんね。

 

A

僕の場合、日本語が分かる前に邦楽を聴いたときにも、なぜか切なさが伝わってきた。日本が一言も分からないのに。

いまは言葉が分かるけれども、ぼくはギタリストだから歌は歌わない。ギターの解釈だけでその感情を伝えないといけない。だからなかなかハードルは高いんですけど、そのチャレンジが大好きです。

今作は日本の名曲ばかりだからみなさん歌詞はご存知で、頭のどこかに残っている。でも僕は頼りたくないですよ。日本人じゃなくても、これを聴いたらなぜかハッピーになる。落ち込んでいるときや悲しいときにハッピーが伝わると嬉しいな。

 

Q

歌詞も頭のどこかにありますけど、こんなに音だけで感情を拾ってくる音はないなと思いましたね。

12曲目の「JAPAN HERITAGE OFFICIAL THEME SONG」(文化庁公認)も壮大で素敵でしたね。

 

A

ありがとうございます。

世界文化大使になって、文化庁が認定してくださって、信じられないほど光栄ですね。まさか日本遺産テーマソングを作ってくださいと言われるなんて。知った瞬間は嬉しかったんですが、5秒後に責任の重大さに気がつきました(笑)。気に入ってもらえなかったらどうしようって……「やっぱり外国人には日本の心が分からないんだね」なんて言われたくないから。かなり苦労してこの曲を作りました。

文化庁の方々にスタジオに来てもらって出来上がりを聴いてもらうとき、僕はすごく緊張していました。終わって「いいんじゃないですか」と言われたときは嬉しくてホッとしましたね。

Q

歌舞伎っぽさなど日本らしさもありながらメロディアスでスケールの大きな感じ、私はとても感動しました。

 

A

外国人が日本風の音楽をつくるときにありがちな、寿司屋さんのBGMみたいな琴とか、「さくらさくら」を持ち出したりする「THE日本サウンド」だけは避けたかったんです。

目指したのは日本人が反応するような、爽やかでちょっと切ないけどハッピー。でもハッピーだけじゃないような……という微妙な気持ちを表現したかった。今の日本人は、「さくらさくら」や「荒城の月」よりもポップミュージックでいえば、いきものがかりの曲とかそういう微妙な気持ちに反応する。僕は日本に住んでからそれをとても感じているんです。

海外から見たら日本人は何に反応するか分からないんですよ。日本で代表的なものは赤ちょうちんと、荒城の月とか、でもそれは外国人用の音楽だと思います。だからそれと遥かに違うものを作りました。

 

Q

面白いですね。海外の目線も理解していながら、日本人の心に何が響くかというのも分かっていて。そして出来た音楽がこのような絶妙なバランスになるとは。マーティーさんだからこそ作れる曲ですよね。

 

A

すごく嬉しい。ミュージシャンとしての最高のチャレンジでした。

僕が日本の曲をやることに対して「ふざけるな」と言われそうな気がして怖かった。なんか外国人のくせにとか、何も知らないくせにとか、日本育ちじゃないくせにとか、そういう恐怖がちょっとあります。

でも、僕の中にはなぜか日本が入っているから、だから僕はなんとなく自分なりに出来ると思います。僕はアメリカ人なのになぜ日本の「何か」が存在しているのか、僕にも分かりません。

Q

不思議ですよね。もしかしたら前世に関係があるのでしょうか。

マーティーさんと話していて感じるのは、日本人よりも日本の音楽を理解しようとして、それをどう解釈していこうかと、ちゃんと向き合ってくれているんだなということです。だからこそ、1曲1曲に愛を感じるんですよね。日本を愛してくれているんだないう確固たる愛を感じる。

 

A

すごく嬉しいです。基本的に音楽大好きだから、好きな音楽に対しての感謝の気持ちを溢れるくらいにたっぷり与えたい感じだから、ちょっとオーバーかもしれない。僕はちょっとやりすぎるタイプだから。

そう言ってもらえてよかったです。

 

Q

こちらこそいつも素晴らしい楽曲をありがとうございます。

最後にADVENTURE KINGの読者にコメントをお願いします。

 

A

ADVENTURE KINGではいつも綺麗でおしゃれな見せ方をしていただいてとても嬉しいです。今回、ADVENTURE KINGに出るのは3回目ですが毎回で見せ方がどんどんスタイリッシュになっている。個人的には憧れの見せ方です。だからいつも呼んでくださって感謝しています。

それぞれこの状況の中でみんなチャレンジがあると思いますが、一番伝えたいことは「やまない雨はない」ということ。特に日本は過去にも大変な状況を乗り越えてきました。日本の長所だと思います。

だから全世界の人たちが日本を見習ってほしいです。日本に居て感謝の気持ちを感じながら、プチ贅沢したらいいと思います。

僕にとってのプチ贅沢は好きな音楽を聴くこと。いつも自分が曲を作っているから、純粋に座って人が作った音楽をゆっくり聴く時間が非常に少ない。だからこれが僕のプチ贅沢。

みんなだったら、アイスを食べるとか、そういったプチ贅沢。大したことはしなくていいから、ちょっぴり自分に優しくしてほしい。

もし僕のアルバムを聴いてすこしでも良い時間を過ごせるのであればそれはありがたいです。

自分をいつもよりちょっといたわる、そうしていくと近いうちに全部乗り越えられると思います。

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音楽への愛を語るとき、日本への想いを発するとき、彼の目はさらに輝きを増す。

音楽と日本。

大好きなそれら2つを軸に自身の人生を創り上げている彼に会うたびに、私はいつも心が浄化される気分になる。

自分に正直に向き合い、純粋に努力を続けているマーティー・フリードマンのピュアネスが彼の内側から溢れ出し、それが私にも感じられるからなのだと、今回気がつくことができた。

いつもチャレンジを続ける彼から、今後も目が離せない。

「TOKYO JUKEBOX 3」

2020年10月21日(水)発売
AVCD-96526
¥3,000(税抜)

Profile マーティー・フリードマン

■出身:アメリカ ワシントンD.C.

■趣味:日本語の勉強、旅行、ファッション

■好きな食べ物:チョコレート、激辛なもの

アメリカワシントンD.C.出身、「CACOPHONY」「MEGADETH」でのバンド 活動で全世界で熱狂的なファンを持つギタリストとなる。

ライブツアーで来日を重ねるうちに日本文化に興味を持ち独学で日本語を習得。 2004年、活動拠点をアメリカから東京へ移す。2005年、伝説のヘビーメタル バラエティー番組「ヘビメタさん」(テレビ東京)にレギュラー出演。続編、 ロックバラエティー「ROCK FUJIYAMA」は日本国内に留まらずYouTubeを通し て全世界のロックファンを驚愕させた。

後に、ギタリスト・作曲家・プロデューサーに留まらず日本好きの唯一無二の 存在として才能を発揮しつつNHK、民放各局のテレビ&ラジオ番組に多数出演、 書籍執筆、雑誌・新聞の連載、映画・CMに出演、そして数々の音楽アルバムを 全世界リリースし、世界各国の音楽チャートから注目されている。

2018年に文化庁から日本遺産大使に任命され日本遺産テーマ曲をプロデュース するなど、現在では日本発進で全世界に向けてマルチ・アーティストとしての 活動を行っている。

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