Interview/ text: Makiko Yamamoto
Photo: Taro Washio
Video: Hiro Mitsuzuka
Music: Mahbie
Location: DJ BAR AND LOUNGE WREP
QZeebraさんと言えば、やっぱり日本のHIPHOPのドン!日本のクラブシーンをよりよくされる活動もされていらっしゃいますよね。海外でのナイトメイヤーサミットのスピーチも本当に素敵でした。そもそもどうしてそこに至ったのでしょう。
A事の発端は風営法改正で。もともとクラブ等の24時以降の営業自体が法律で禁じられていた中、クラブはグレーな状態で営業していたんだよね。みんなある意味いつ営業停止をくらうか分からない状況で営業なさってて、クラブが摘発されたとき、我々出演者たちは直接何かされるということはないものの、場合によってはDJまで連れて行かれることもあったりして。
ただ世の中的には「普通に考えてクラブの深夜営業は当たり前だし、逆に24時までというのがおかしい」って考えがあって、じゃあ俺らでそのねじれを変えられないかというところから始まったね。そこでアーティストたちが集まって「クラブとクラブカルチャーを守る会」というのを発足したんだよね。その会は俺より歳上の先輩方が中心なんだけど、なぜかひょんなところから僕が会長をやらせてもらうことになって。改正運動をやっていく中で「どうやらヨーロッパにはナイトメイヤーといわれる“夜の市長”というシステムがあるらしいよ」と。で、「今度オランダのナイトメイヤーがオランダの市長と一緒に日本に来日するらしいから、じゃあちょっと話聞きにいってみよう」ということで会いにいったら「今度、初のナイトメイヤーサミットを開催するからもし良かったらそこに来ないか」という話を頂いて、我々としても各国と繋がって連携をとりたいというのもあって、2016年アムステルダムで開催された「ナイトメイヤーサミット」に参加することになったんだ。
ちょうどいいタイミングで日本の風営法が翌年改正になるということが決定したので、その報告を兼ねて15分くらいスピーチをさせていただいて。
参加してわかったのは、どの国も同じような問題を抱えていたりするということ。国によって法律も色々あって、例えばアメリカだったらお酒に対して厳しいんだよね。夜2時以降はお酒を販売してはいけないから、バーなんかもその時間でクローズ。ただ、お酒を販売しなかったら営業していいみたいなのもあったりしてね。
そういうのも含め、俺のスピーチでは、国によって法律の状況が違ったりする中で、どういう運動をしたら法律を変えられるのかという話をさせてもらった。当時ちょうどロンドンで老舗のクラブが閉店になるとか、クラブ営業にたいして厳しい状況になっていて、我々の話を聞いたロンドンの連中は「日本に学ぶことがたくさんあるよ」なんて言ってくれたりとか。
それ以来僕も日本にナイトメイヤーが出来て欲しいなと思っていて。今、日本ではナイトタイムエコノミー(夜の経済)というのが国レベルでも大事だという流れになってきてくれているんで、今はその流れの一つとしてナイトメイヤーを日本で実現できるように発足準備委員会を僕が立ち上げて、とりあえずは渋谷区から始めてみようかなというところなんだよね。今年の11月に選挙をしようかなという話になってる。
Q夜の“市長”だけに選挙制なんですね。
Aそう。とはいえ本当の行政ではなく、民間が行政との間に入るような立ち位置なんです。町内会の方々とも色々相談させて頂いているんだけれども、夜の事に関して、やはり行政はほとんど手を差し伸べてくれないという話を聞いていて、じゃあまさに僕らはそこの部分を担える架け橋となれればいいなって。ちょうど渋谷区長は僕と同い年なんだよね。だからすごく話も合うし、渋谷区長も元々渋谷が地元の方だから完全に乗り気になってくれていて、これからいい連携が取れるんじゃないかなと期待してる。
Qナイトライフって一つのカルチャーですよね。私も若い頃はクラブに通い詰めていたし、そこで色々なドラマが展開されたり、普段会えないような人と会えたりして学校では学べない勉強ができた気がします。それはいまの若者にとっても同じだと思う。何らかのインスピレーションは必ず受けられる場所というか。
Aそれこそディスコの時代から若者たちは夜遊びをして、そこで人と知り合ったり、色んなことが生まれてきた脈々とした歴史があって。そう思うと、今でもクラブって50〜60代の方々でも普通にアクセスできるカルチャーだと思う。
だからそういう意味では若い人から大人まで集まるクラブっていう場所で”歴史は夜作られる”というように、ほんとに昼間では浮かばなかったアイディアとか、昼間知り合うことのなかった人と知り合ったりして、新しいコラボレーションが生まれたりとか。我々なんかほとんどそれで成り立っているみたいなところがあって。一応週2日は休むんだから、1日くらいは夜遊んでもいいよねって。
Qそうですよね。それを変に規制してしまうと逆に歪みが出来て、グレーゾーンだったりアングラな動きになってしまうのかなって。
Aうん。風営法が改正されて何が良かったかというと、クラブの中で何か起きてもすぐに警察に通報できるようになったこと。だから昔よりも安全になったんだよね。昔は通報すると「そもそもなんでこの時間に営業してるのか」って話になっちゃうので、よほどなことがない限り、警察に通報出来なかったし、そういうところにつけこんで悪いことをする人もいたりとか。でも今はそれがなくなった事によって正式に安全な状況が実現出来たと思う。特に女の子たちにとっては安全に越したことはないから。
Qクラブもそうですけど、HIPHOPのシーンでもZeebraさんは若者を育成する側とか、アーティストに活躍の場を与える活動をされていらっしゃいますよね。
Aそうだね。俺たちの世代が一番メインで動いていた時代なんかも、先輩方が色々なところでメディアや、イベントをやってくれたりしたんですよね。それこそ亡くなったECDが主催でやっていた、90年代のHIPHOPの伝説のイベントと言われる「さんピンCAMP」が代表的かな。
俺もいい歳になったことで繋がる人たちもみんなそれぞれポジションがある人達が増えてきて、それによって若い頃は出来なかったことが出来るようになったというのは、すごい大きいなと思っている。
今の若者に活動の場をつくるのも、せっかく若いんだから、今の若いまま盛り上がってくれたらいいなと思うから。そもそもHIPHOPってクラブでかかる音楽だったし、例えば誰か一人のアーティストの曲しかかからないクラブなんてない。つまり、HIPHOPというのは、色んなアーティストが成功して始めて成立するんだよね。誰か一人が上手くいっていてもダメで、色んなアーティストがどんどん出てきて一緒にコラボしたり、戦ったりするのがすごく刺激的だから。初めから俺はそういうつもりでやってきた。
もちろんアーティストとして自分が引っ張っていこうという意識があって、前に立っていたというのもあるけれど、とにかく曲作るときも色んなアーティストとコラボしたり、HIPHOPシーンで話題の若手とかにいち早く声をかけて一緒にやったりだとか、そういうのをずっとやってきたつもりで。
例えば2008年に武道館で「ZEEBRA 20th ANNIVERSARY THE LIVE ANIMAL in 武道館」というライブをしたのも、当時HIPHOPで武道館ライブなんてなかなか出来ない状況だったから、一人でも多くのヒップホッパーをステージに上げたいなって思って。過去のコラボ曲もそこでほとんどやったんじゃないかな。
自分のやってることは基本そんなに変わってないけれど、やれる幅が広がったんで、その分大きな事が仕掛けられるようになってきたというのはあるかな。
Q単身NYに行かれた時からずっと色んな冒険をしてると思うんですけど、Zeebraさんが常に大切にしている軸はありますか。
Aやっぱり常に目指す場所をもつということかな。俺の場合、若い頃USのHIPHOPに触れて、それでHIPHOPが好きになった。今、USではビルボードチャートのトップがほとんどHIPHOP になってるという状況で、日本のHIPHOPもやっぱりそこまで行かせたいよなと思うんだよね。
だからそれがモチベーションかな。その思いはずっと変わらなくて、向こう(US)見てると羨ましいなとも思う。イベントや番組もほんとに沢山あるし、アーティストたちのおかれている状況も良いし、もちろんお金もいっぱい回ってて、すごく夢があるなと。日本もああいう風にどうやったらなるかなって、常に考えてるね。
QヒップホップでもそうですがZeebraさんて色々な方とコラボしていますよね。ジャズ・アーティストのTOKUさんとブルーノート東京でライブされたのは新鮮でした。
ATOKUとのコラボはまさにアドベンチャーだよ。俺も今はプロデュースとか裏方的なことも興味を持ってやっているけど、もちろんプレイヤーとしての自分も常にいて。BADHOPとかの10代20代の子達がすごいイケてて良い感じに勢いがあってという状況の中で、「俺にもうあれは出来ねぇな」って思う事もいっぱいある。でも逆にアイツらにはまだ出来ないなってこともいっぱいあって、そういう事をやってみたいなって中の一つがJAZZの現場というか。
自分も元々DJだったこともあって、音楽には結構詳しい方で、JAZZってそういうバックグラウンドがすごく生きる現場だし、JAZZの何が良いかというと一人一人、プレイヤーはバラバラなんだけども、セッションを通せば一つになるというか。
バンドだと全体で一つって感じだけど、JAZZはバンドというよりも今日はキーボードが誰で、今日はドラムが誰で、という風に毎回がセッションになるんですよね。そのセッション感がすごく楽しくて、その中に自分もミュージシャンとして入ったときにどんな事が出来るかってところが、Zeebraというラッパーそのものの可能性を証明する場所でもあるし、俺というアーティストがどのくらいの幅で表現できるかというところを試す場所にもなる。
だから毎回、完全に即興でやろうという曲があったりとか。TOKUが毎回無茶振りをしてくるんですよ(笑)。「3拍子でラップできない?」とかさ(笑)。
それで俺も「それ面白いからやってみようよ」って試してみることが、やっぱり実験的ですごく刺激的だし、ステージ立つたびに冒険してる感じがするね。
Qその日にしか聴けないケミストリーがありそうですよね。
A完全にそうだね。俺も普段やらない事をやるし、普段歌もカラオケでくらいしか歌わないんだけど、JAZZの現場だと歌うときもある。あとはやっぱりJAZZとHIPHOPの共通点はブラックミュージックというところがもの凄く大きいかなと思っていて。ブルースに始まり、JAZZがあって、ソウルがあって、R&Bがあって、ファンクがあってみたいな流れがもう当たり前のように…ずっと聴いてきた分、俺の中ではブラックミュージックが血となり肉となってるところがある。
JAZZというのはHIPHOPと近いところがあるのかなと、大人になった今、思う。似たようなルーツがあるということにおいても、JAZZもHIPHOPも、あくまでも表現の幅の中での一つの見せ方っていうのかな。
でもJAZZをやる事によって、普段クラブはタバコくさいからとか、夜は眠くなっちゃうからという人達が、ジャズクラブは席もあるしって言って遊びに来て、楽しんでもらえることはすごくいい事だし、そういう機会を少しでもたくさん作れたらいいなって。
「Zeebraってこんな音楽もやるんだ」って言う感じで、また違う気持ちで聴いてくれたらなっていう思いもあってやってるね。
QJAZZの他に、来る8月17日にはヒップホップ・フェス「SUMMER BOMB 2019」を開催されますよね。
A2014年からスタートして今年で6回目。もともと毎年夏に「B BOY PARK」というHIPHOPのイベントが代々木公園であったんだけど、あそこのステージがターンテーブルの使用が禁止になって、ちゃんとしたライブができなくなっちゃったの。だから代わりの、何か東京でやれる大きなHIPHOPの夏フェスが必要だなと思って、じゃあ俺がなんか始めようかって始めたイベントなんだよね。俺と仲が良いとか、それだけで出るようなイベントじゃなくて、その1年間話題を作ったHIPHOPのアツイ奴らがズラッといっぱい出てくるイメージ。
Qじゃぁ、イベントに行けばHIPHOPの最新激アツアーティストを見られると!
Aそうだね。まぁ控えめに見積もっても7割はその現場にいるんじゃないかな。しかも、今年はステージを2つ作って、全部で35組出演できるようにした。すごく大変でタイムテーブル考えるのも死にそうだったんだけど(笑)、でも年に1度のHIPHOPのお祭りみたいな感じなので、出演者も含めてみんな楽しみにしてくれてて。これもどんどん大きくしていきたいなと思ってる。来年はどこか野外でやれないかなぁって話もしているね。
Q色んな人にチャンスをあげたいって素敵な考え方だと思います。最後に、Zeebraさんがこれからやりたい冒険はありますか。
A「フリースタイルダンジョン(テレビ朝日)」以降、番組づくりをやってみていて、今は例えばAbemaTVのHIPHOPチャンネルで「WEEKEND BOMB」っていうHIPHOPのライブ番組みたいなのをプロデュースしているんだけれども、今後はもっとそういうこともやりたいなと思っていて、今は番組の企画をいっぱい考えてるところ。まだ言えないんだけど、近々若い子向けの面白い番組を始められたらなとは思ってるね。
Zeebra Profile
Rapper/DJ/Hip Hop Activist/Grand Master CEO/Shibuya Night Ambassador/AbemaTV「WEEKEND BOMB」プロデューサー/テレビ朝日「フリースタイル・ダンジョン」火曜深夜1:26/WREP「LUNCHTIME BREAKS」月〜金昼12時
SUMMER BOMB 2019
日程:8月17日(土)
時間:OPEN/START 12:00
会場:東京・新木場スタジオコースト
公式サイト:http://summerbomb.amebaownd.com
<LINE UP>
ACE COOL / ANARCHY / Awich / CREAM / EGO / GADORO / 餓鬼レンジャー / 般若 / Jin Dogg / KEN THE 390 / KOWICHI / Leon Fanourakis/ Loota / MaisonDe / MC TYSON / MIYACHI / MU-TON / 舐達麻 / Normcore Boyz / Novel CoreOZworld a.k.a R’kuma / PIT-Gob / RHYMESTER / RUEED / 孫GONG / t-Ace / T2K a.k.a. Mr.Tee / Tajyusaim Boyz / TAKUMA THE GREAT / TKda黒ブチ / 輪入道 / YOUNG FREEZ / Young Hastle / YZERR / Zeebra
<MC>
DJ TY-KOH & 瑛茉ジャスミン
<チケット情報>
一般前売りチケット / 立見:料金 6500円(税込 / ドリンク代別)*各プレイガイドから発売