近年、日本に巻き起こっている“MEGUMI旋風”。
女優、経営者、著者、プロデューサー、母親、ブランドミューズ…さまざまな顔をもつ彼女を一言で形容するのは容易ではないが、敢えていうなら「職業・MEGUMI」。
美貌と知性を兼ね備えた女戦士に問う、「人生」とは、いかに。
Interview/ text: Makiko Yamamoto
Photo: Kenichi Muramatsu
Styling: Kumi Saito
Hair & make-up: Megumi Kato
AK
MEGUMIさんは女優業やプロデュース、経営者、母親と色々な顔を持たれています。活動のフィールドを広げられたキッカケはあるのでしょうか。
MEGUMI
気質かもしれません。子どもの頃から習い事を週5くらい、自分の意志でやってましたし。この世界に入ってからもバラエティやグラビア、ラジオ、ドラマなど広く出させていただいていたのがデフォルトでした。ただ出産してから、仕事のオファーを待つという受け身な側面がある芸能界で「今後、自分から発信していかなきゃいけない時代が来る」と直感的に思ったんです。
それから仲間にグリーンバックを送って作ったのが、リモートドラマ『CULUMCY JOURNEY』。振り返るとクオリティ的に「プロデュースした」と言えるかはさておいて、“自分発信”で世の中にアウトプットすることが喜ばしいことだと気付きました。
AK
経営に関してはいかがですか。
MEGUMI
人生のメンターがいて、その方に「芸能界は狭いから、世の中と繋がっていかないと世間知らずになるわよ。一番世の中と繋がれるのは商売なんだから、一度やってみなさい」と言われたんです。今までいただいたアドバイスも間違いないものばかりだったので、そのときも二つ返事で「かしこまりました!」と(笑)。私って結構、体育会系なんです。
AK
MEGUMIさんの活動を拝見していて思うのですが、経営もプロデューサー業も自分で手を動かす“泥臭さ”がしっかりあるなと。
MEGUMI
立ち上げや初期段階は、しっかり把握しておかないと「MEGUMI、何言ってんの?」と思われてしまうので。そうしないと「タレントが名前だけでやってる」と勘違いされかねないし、自分が理解しているかどうかで説得力も変わりますから、基本的に「最初1、2年は全部に顔を出す」というルールを自分に課しています。

AK
日本だとプレイヤー(俳優)がプロデュース(制作)をするということ自体、業界(芸能界)の仕組み的にも難しいのかなと思います。でも海外だと俳優が企画や経営することは当たり前ですよね。国内外の働き方や業界の違いをどのように考えていますか?
MEGUMI
日本は予算がないから過酷だし、何かミスをしたら一発アウトという異常なまでの厳しさがあります。先日、スペインに行って現地の制作会社の方と話したのですが、向こうはある意味で緩くて、楽しそうにやっているなという感じ。日本も昔は朗らかな空気感だったんじゃないかなと思いましたよ。好きなことを楽しくやって、ビジネス的にも成功しているという状態が今の日本にはありません。
若い子も安いギャラで働いているし、プロデュースする側も予算がなくて申し訳ないくらいしか払えなかったりもする。それでも数字を取らなきゃいけない、スケジュールもタイトで、というネガティブなことばかり。本当に衰退の危機感があるし、それに気づいた自分は微力でも盛り返す可能性を諦めるわけにはいかないと考えています。
AK
Netflixなどの外資系コンテンツ配信会社は資本も潤沢ですしユニークなアプローチで制作をしている印象ですね。
MEGUMI
グローバルではそうですけれど、Netflix Japanは「ジャパン」という感じですね。Apple TVは攻めた作品をされているなと思います。作品サイクルの速さと媒体のエッジの効き方の変化がすごい。
AK
私も去年カンヌ映画祭に行って海外と日本の温度差を目の当たりにしました。昨年は日本人がカンヌ国際映画祭で2つも賞をとるという快挙でしたが、日本の大手映画会社は海外よりも国内市場を向いている印象です。
MEGUMI
実は今年(2024年)の5月、日本の映画および文化を世界に広め、日本映画産業、日本企業と世界の映画業界との間での交流の促進する目的で、第77回カンヌ国際映画祭にて「Japan Night」を主催します。「衰退している」としか言いようのないエンタテインメントの世界で頑張っている方々をメインに、海外のプロデューサーや映画監督たち、それから「スポンサーになりたいが、映画業界をまだよく知らない」という企業の方々をご招待します。パーティーでは日本の監督たちに決意や未来の作品の構想もスピーチしてもらいたいと思っています。
皆さんに交流いただくことで何かが生まれたらいいなと…現時点ではまだどうなるかわからない実験要素が多い。でも、開催することで1つでも作品が生まれたり、誰かが繋がっていく会になれば、と。素晴らしい夜になると期待しています。
特に日本の役者たちにはカンヌのキラキラした空気はもちろん、「マルシェ」と呼ばれる、作品を売買するマーケットがあるのですが、そこでの大手日本映画会社の現場の景色を見てもらいたくて。
AK
私も昨年訪れましたが、各大手日本企業のブースはとても寂しい印象でした。
MEGUMI
そもそもプロモーションする映画のポスターは曲がっているし、人もまばらで、もはやバイヤーを呼び込む気や売る気もないのではないかと思わざるを得ない状況ですよね。
あの実情をみんな知らない。国内市場のポテンシャルが高いから、どうしても日本マーケットに目がいってドメスティックなるのはわかるけれど、同時に海外も出ていかなきゃ、出していかなきゃ。
日本映画業界を牽引している大手企業が日本の外でもっと何かやろうと思ってくれたら嬉しいですね。海外と組めば予算をかけられるし、海外で公開したらもっと興行収益も桁違いに跳ねる可能性もあるのですから。
海外の映画祭に行ったり、海外の撮影チームと話していて思うのが、外国の人たちは楽しそうだし、優雅だし夢がある。ああいう空気を私たちは知りません。それを知れば影響のある人がコネクションを作るかもしれませんし、お金のある人は「映画っていいじゃん」と思って出資するかもしれない。それが私のやりたいことであり、できることだと考えています。
AK
その想いから実際に動き出す姿勢がカッコいいです。カッコいいといえば、MEGUMIさんは女性が主役の作品をメインにプロデュースされていますよね。その背中に確固たる意志を感じます。
MEGUMI
NewsPicksの番組に出演した時に、「日本人女性の自己肯定感が世界最下位だった」というニュースを取り上げていたのが出発点です。私も芸能界に長くいたし、母親になったり年齢を重ねるなかで、男性主演の作品が多いことや日本人女性の感情的な部分、ホルモンバランスの揺らぎ、若いことが美徳とされる文化に疑問がありましたから。
自分も女性だから、寄り添いたいという想いもあります。もちろん男性も大変なんですけど、異性だと細やかな部分までは理解が及ばないんですよ。だから私の企画するものに関しては女性がなるべく主演で、色々な荒波を乗り越えて成長していくような物語を作りたいなと。「日本や世界の女性にエールを送る」というテーマは根底に置いていたいので。

AK
私個人も昨年カンヌに行った時に「#MeToo運動」が起きた理由がよくわかった気がしましたね。海外の映画業界人に多数会いましたが、女性をデート相手にしかみてないんだなというような方も少なからずいらっしゃいました。
MEGUMI
カンヌは商業映画祭のトップオブトップだから、そういうこともあるのかもしれませんね。しかし、声高に主張することで理解を求めても、どうしても届かない部分はあると思うんです。結局は女の人たちも頭を使って上手く立ててくぐり抜けつつ、世の中を前向きに歩いていかなきゃいけない。
そのしたたかさも必要なのかなと。それは20年、芸能界で働いて感じたことでもあります。自分の真価を発揮するためには男性も女性も互いのリスペクトが必要不可欠。
AK
そうですね。偏ったフェミニズム的な運動をしても難しい面がありますよね。
MEGUMI
拒絶されて終わったら何にもならないですから。そこも作品に落とし込んで伝えられたらとは思っています。なかなか理解してもらうのが難しいですけど。美容を発信しているのも、自分で自分の見た目とマインドを整えることでパフォーマンスが上がるからなんですよ。
ホルモンバランスが乱れている時に機嫌が悪かったり、発想がネガティブになっていると何もかもが前に進みません。だから、まず自分をケアすることが大事。だから作品に限らず、すべての活動において女性のためにやっているつもりです。
AK
その利他的なマインドはどこから湧いてくるんでしょう?
MEGUMI
自分のためにやることに飽きましたね。「売れたい」とか「稼ぎたい」がモチベーションになったときもあったけれど、それも徐々に限界が来る。さらに子育てを経ると、誰かのために何かをやるのが人として一番喜ばしいことだと気付けたんですよ。
「人の喜ぶ姿を見て、自分も喜ぶ」のは人の仕組みのようなもの。芸能界をサバイブしてきた女性であること、母親でいながら仕事も続けてきた、という経験を世の中に還元するなら、こういう活動かなと思って実践しています。
AK
そして昨年は著書『キレイはこれでつくれます』が大ベストセラー、現在は木村太一監督の映画『Afterglows』が制作中ということで。
MEGUMI
そうなんですよ。今はさらにスペインと日本の合作映画の話も舞い込んできてて。離婚した女性がスペインで癒される物語です。あとは4月から始まるフジテレビ系ドラマ『おいハンサム!!2』にお母さん役で、テレビ朝日のドラマ『東京タワー』では夫に囲われていたけど、ある男性と出会って解放されていく女性役で出演します。二極な母親を演じてますね。
そして、カンヌでの「ジャパンナイト」。とにかく日本と海外を往復する仕事を増やしていきたいから、実現のために球を投げ続けたいですね。どの球が弾けるかはわからないですから。

AK
自分の道を切り拓いているMEGUMIさんにとって「人生」とは何ですか?
MEGUMI
人は動くために生まれてきてると思うんです。年齢を重ねると、どんどん怖くなって腰が重くなっていくんですよ。コロナ禍になってからは「コロナが明けたらやろう」という思考のクセも付いてしまった。
でも海外に行くと何かが始まっちゃうんですよ。出会いがあったり、映画を作る話になったり。「行動の先に新しい何かが生まれる」ということが、私の人生にとって確信になりつつあります。とにかく人生は動くのみ。それを死ぬまでやりたいなと思っています。
日本の映画を世界に出したい。
死ぬまで自分で動いて発信しつづける
――それが人生です。
彼女は一片の迷いもなくそう語り、その透き通ったは、まるで武士のような強い光を湛えていた。
MEGUMI profile
1981年生まれ、岡山県出身。
『台風家族』『ひとよ』(19)でブルーリボ ン賞助演女優賞を受賞。 近年では映像のプロデューサーとしても活躍の場を広げており、
映像集団「BABEL LABEL」にプロデューサーとして参加。
2023年には「キレイはこれでつくれます」(ダイヤモンド社)を出版。
Styling:
TOPS¥17,930(MAISON SPECIAL/MAISON SPECIAL AOYAMA☎︎03-6451-1660)
SKIRT¥70,400(FETICO/THE WALL SHOWROOM☎︎03-5774-4001)
RING(right)¥15,400(Soierie☎︎06-6377-6711)
RING(left)¥82,500(mayuokamatsu/MAYU SHOWROOM✉︎kohcoon@mayuokamatsu.com)