ラッパー、プロデューサー、経営者など多方面で活躍し業績を遺し続けているVERBAL。
3度目の登場となる今回、どのようにして今のVERBALに至ったか、そしてマルチに活躍しすることになったその発端に迫ってみた。
Interview, text: Makiko Yamamoto
Photo: Taro Washio
Hair & make-up: GoTakakusagi (Vanites)
Location: AMBUSH®︎ WORKSHOP

ADVENTURE KING (以下:AK)
今回、3度目ということですが、お会いすると毎回初めてのように新鮮な気持ちになります。いつも刺激的なインタビューをありがとうございます。
VERBAL
ありがとうございます。


AK
もはや“職業VERBAL”と言えるほど業界を超えて活躍されているVERBALさん、子供の頃からその片鱗はあったのでしょうか。
VERBAL
自分で掘り下げていくよりは、何かに出会って感化されることが多かったですね。「これだ!」と思うと、そればかりやるという性格でした。周りに左右されるのではなく、自分のアルゴリズムにハマったものを追求して夢中になるタイプ。小学校って休み時間になるとみんな外で遊ぶと思うと思うんですけど、僕は先生に「絵を描きたいので外に出たくないです」と話して驚かれたこともあります(笑)。


AK
”なんとなく”外で遊ぶのではなく、”好き”だから絵を描きたいと。
VERBAL
当時は漫画家になりたかったので、みんなとサッカーをすることなく、教室に残って描いていましたね。戦隊ものの特撮やアニメも好きで自分なりに研究していて、東急ハンズで買ったウレタンなどのマテリアルで怪獣のマスクを作ったり、そこからミニチュアのジオラマに凝ったりもして。
その後、音楽と出会い「これが自分の表現方法だ!」と感じてから音楽にハマりました。好きだと思ったら、限界まで突き詰める感じです。


AK
好きになったら、自分でやってみたいと思うタイプなんですね。
VERBAL
好きなものだからこそ、それを仕事や人生のアクティビティにできるかどうかを探るためだろうなと思いますよ。
高校時代に音楽に目覚めてとことんまで突き詰めて曲を作って…どうやったらデビューできるかを考えた結果、「デモテープを作って送りまくるんだ」という結論に到達した。それで、自分たちでカセットテープを買ってきて、アートワークも手探りながらも自分で描き始めました。それを不特定多数の“偉そうな人たち”に渡してみたり(笑)。
フジテレビの番組『ハウスエナジー』にも送ったのですが、なんと番組に出れることになって、まさかの優勝までしてしまったんです。当時Forlife Recordsからデビューのオファーまで頂いたのですが、その時は親にも反対されたのでお断りして、その後大学へ行って就職、と。



AK
米名門ボストン・カレッジを卒業した後、証券会社に勤められましたが、依願退職して音楽の道へ。それも“好き”を追求した結果なのでしょうか。
VERBAL
スミス・バーニー(現・モルガン・スタンレー・スミス・バーニー)勤務というステータスには親も喜んでくれたのですが、自分としては金融業にはピンとこず、当時は全くのめり込めませんでした。でも上司に気に入られる才能があったみたいで、「俺とニューヨークに行こう」と声をかけてもらったこともありましたが、キャリアパスがイメージできなくて…結局1年ほどで辞めてしまいました。


AK
エリートコースを手放して音楽に進むというのはとても勇気がいりますよね。
VERBAL
若気の至りや勘違いもあると思うのですが、やりたい気持ちが先走って根拠もなく「ま、大丈夫でしょ!」と考えていました。今の僕だったら怖いと思うかもしれませんが、勢いとノリでやり抜けた感じですね。
それで、サラリーマンを辞めて日本に戻ってきてから、高校時代に一緒に音楽活動をしていた☆Taku Takahashiから「曲作ってるからラップしてよ」とお願いされて16小節パパっと書いたんですよ。
その曲がアナログで500枚販売されると聞いていましたが、リリース後、即完売したんです。次にその流れで曲を作っていくうちにファーストアルバム『Planet Shining』(2000年)が30万枚売れて、翌年出したセカンド『EXPO EXPO』が80万枚も売れて、「そんなことある?」と。それが仕事になっていきました。
音楽は(仕事として)現実的じゃないと感じつつ、趣味感覚で自分がカッコいいと思うことをやっていって、それがどんどん仕事になっていったんです。


AK
高校生の頃の夢が、数年越しに叶った感覚ですよね。
VERBAL
高校生のときは計画しても親に反対されたりして上手くいかなかったけれど、二回目に音楽を始めた時は「まさかまさか」と思っているうちにどんどん形になった。それで先輩方から「税金対策もした方がいいぞ」と言われ、よくわからないまま有限会社を立ち上げて、個人で入る著作物の印税以外のお金はそちらに入れてもらうようにしました。
現在運営するファッションブランド・AMBUSH®が事業になったのも、その法人からだったんですよ。今は事業が拡大したので「株式会社AMBUSH」として法人化しましたが、当時は一歩一歩石橋を叩きながらやっていましたね。そういった全ても計画していたわけでなく「なんか盛り上がってるよね」みたいな、他人事な感覚でした。



AK
デビューから25年以上も好きな音楽を続けられているというのは素敵なことですよね。
VERBAL
結局、今やっていることは全て自分に向いてたんじゃないかな。試してみて合わないことは続けないというスタンスなので、続いているということは合っていたということ。法人を立ち上げたものの、辞めたり譲ったりした事業もあるんですよ。嫌だったわけではなく、“自分よりも長けている人がいるからその人に任せよう”と思ってのこと。
逆に音楽はプロデュースなど裏方にいこうとすればするほど、前に出る場面が増えていくんですよね。ファッションも本当はうまくエグジット(売却)したくてブランドの株式を過半数譲渡しているんですけど、なんだかんだで今だに運営を続けて様々なファッション関連の事業に携わっています。だから両方ともライフワークなのかもしれません。


AK
それを見つけてしまった、と。
VERBAL
そういう感じですね。だから音楽もファッションも「アドバイスしてほしい」と言われるとドキドキするんです(笑)。業界のなかで自分のポジショニングが確立されたことで楽しく表現ができる反面、落とし穴もたくさんあってリスキーなのも事実。
クリエイティブすぎると「なぜ自分のことをわかってくれないんだ」と潰れてしまうし、数字ばかりになると機械的で面白くなくなってしまいますから。だから長続きする秘訣があるとすれば、バランスですかね。表現の場を担保しつつ、事業もできれば勝ちかなと思います。


AK
幸運にのぼせるのではなく飛躍させたんですね。いい時も、どん底のときでも、「自分が本当にやりたいことは何だろう?」と自問自答していれば、いつか光に手が届くような気がします。VERBALさんにとって、人生の軸はなんですか。
VERBAL
どこまでいっても、人とのコミュニケーションがエネルギーの源だなと思っています。AMBUSH®も音楽のプロジェクトもコラボレーションで成り立っているんですよ。AMBUSH®もナイキと一緒に制作して多くの人に楽しんでもらえていますし、m-floもたくさんコラボレーションをして今も楽しくやっています。
デビューした時にメーカーの人に「ビジネスのイロハを教えてください」と言ったことがあるんですよ。その答えは「おまえは裏方のことは気にせず、奥さんをラップで食わすくらいの気概でやれ」というものでした。正直アホじゃないかと思いましたね。
僕はビジネスがしたいのではなく、色々なことを知っていた方がコラボレーションしやすいと思っただけでしたから。仮に「ラップ一本でやってくぜ」という作詞家のみのスタンスだったら、きっと25年も続けられなかったでしょう。
もちろん孤高のアーティストで成功している方もいますが、自分はそういうタイプではないと感じていたので色々知りたかったんです。知れば知るほど深みも増すし、壁にぶち当たった時の立ち回りやソリューションを閃きやすい。どんな窮地も絶対に抜け出せるという自信があるのも、今まで色々なコラボレーションをさせてもらえたおかげなのかなと。


AK
人とのコラボレーションだけでなく、Web3.0やNFTなど最先端のテクノロジーも積極的に取り入れていますね。
VERBAL
テクノロジーを通して表現方法をいくらでも広げられるだと思っていいます。現にダイナミックアイデンティティを持つZ世代がテクノロジーを駆使して新しいマーケットをどんどん作り上げていますし。Web3.0は分散型で格差社会のシステムを崩せる構造ですから、アイデアさえあれば若手でも活躍できまするし、夢があると感じました。
NFTについては、それをアクセスパスとして僕たちのサイトから特別なページに飛び、仮想通貨を使ったショッピングができるということが魅力的でした。エルサルバドルではビットコインでコーヒーが買えるように(2021年同国のブレゲ大統領は世界で初めてビットコインを法定通貨に指定した)日本でも簡単にビットコインやイーサリアムを筆頭に様々な暗号資産でAMBUSH®の商品が買えるというなると、通貨によるブロック(障壁)がなくていいなと思ったんです。
AIに関しては、m-floの音楽プロジェクトで新しいファンコミュニケーションを模索しています。具体的なお話も進んでいるので、是非発表を楽しみにしていただきたいです!


AK
これからはライブの演出などもドラスティックに変わりそうですよね。
VERBAL
今後はそうでしょうね。先日OpenAIがテキストから最長1分の動画生成するAIモデル「Sora」をリリースしましたし。コロナ禍で人工知能の進化に拍車がかかったのもあるかもしれません。



AK
今後、VERBALさんはどんな冒険や挑戦をしたいですか。
VERBAL
近年は好んで裏方の方に徹してきたせいか左脳派でしたが、表現をするための右脳が錆びてきたような気がしたので、ここからもう一度、自分の好きなことや表現する時間を作って、インスパイアされるものに触れたり見に行ったりしたい。新しい“没頭できること”を探す必要があるかなと思っています。


AK
新たな冒険が始まりそうですね。
VERBAL
この間、京都で行われた個展「村上隆 もののけ 京都」に行ったあと、現地の友達と京都のギャラリーを巡ったりしたんです。東京にもあるようなものなんですけど、別の見え方で入ってくるんですよ。仕事でもなんでもない時に目にするものがとても新鮮に感じて。そういう時にこそ新たなクリエイティブのヒントがあるんだと刺激になりました。
仕事の目的とは関係のない場所に何も考えずに行く、それが今年のアドベンチャーです。

今回の対話で気がついたのは、彼は「天命」を見つけられた人なのだろうということ。
筆者の20年以上のインタビュー経験から、私の中で、“天命を見つけた人”というのは、どんなに有名で成功していてもそれが“当たり前”であるから偉ぶったり高圧的になったり恩着せがましくならないのだという結論に(今のところ)至っている。
だからこそ、いい具合に肩の力が抜けているし、人に対して普通に謙虚に振る舞える。
そして、現状に過度に満足もせず、いつも心がときめく“何か”に出会いたくてワクワクしている。
天命を見つけられた人は幸運だ。
でもそれは運ではなく、VERBAL氏のようにいつも「好きかどうか」「打ち込めるかどうか」を心に問いかけ、心に素直になれる強さと純粋さをもっているかどうかも大切なのだと思うのだ。
大人になればなるほど、地位や名誉に翻弄されがちだが、それは所詮他人からの評価であることを頭の片隅に置いておこう…そう自身と読者に伝えたい、そんなインタビューとなった。

VERBAL Profile
1999年にm-floのメンバーとしてデビュー。TERIYAKI BOYZ®のメンバーとしての活動を通じファレル・ウィリアムス、ダフト・パンクなどの受賞歴のあるプロデューサーや、NIGO®など国内外で活躍するクリエイターとともに、様々な音楽プロジェクトで世界的に注目を集める。
CEOを務めるブランド「AMBUSH®」は、クリエイティブ・ディレクターのYOONと共にスタート。2015年にはパリでのデビューを果たす。2015年から2018年には、Business of Fashion誌が選ぶ「世界のファッション業界に影響を与えるトップ500人」としてYOONと共に選出された。 NIKE、LEVI’S、Bulgari、MOËT & CHANDON、RIMOWA、Gentle Monster などのコラボレーションを展開。
ブロックチェーンやAIなどのテクノロジーにも造詣が深く、それらを積極的に駆使しながらエンターテインメントの可能性を追求し続けている。