INTERVIEW

Mototaka Ikawa

井川意高 ―羽化登仙に生きる冒険野郎―

――大王製紙会長、井川意高氏が会社法違反(特別背任)の容疑で東京地検特捜部により逮捕――
2011年、衝撃的なニュースが日本を駆け抜けた。

編集長山本が井川氏に出会ったのはそれから5年後、刑期を終えた直後の2016年。
スーツ姿のビジネスマンのイメージから一転、短髪にTシャツ姿の彼からは、軽やかな清々しさを覚えた。

姿勢の良い彼の佇まいや発する言葉から知性や品の良さが伺える、そんな印象だった。

折に触れ対話するうちに、彼の中に確固たる自分目線…つまり人生軸、言うならば「人生の羅針盤」が存在していることに気がついた。

現在、氏は政治や時事問題に対して歯に衣着せぬ鋭い物言いで注目を浴びているが、その発言の一つひとつにも井川氏本人の経験や目線が際立っている。

アドベンチャーキングが5年ぶりに紙媒体を発行する第一号のテーマを「人生の羅針盤」に決めたとき、真っ先に頭に浮かんだのが今号の表紙を飾ってくれている2人だ。

井川氏に問う、人生…その羅針盤とは、いかに。

Makiko Yamamoto

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ADVENTURE KING 2023WINTER ISSUE 井川意高「人生の羅針盤」スペシャルムービー

Interview/ text: Makiko Yamamoto
Photo: Yuya Takahashi
Styling: Takuto Satoyama(LUCKY STAR)
Location: Kiyoharu Art Colony

“人生一周回って、今がいちばん居心地がいい”

ADVENTURE KING (以下:AK)

井川さんと知り合って数年、度々対話をさせて頂きましたが、井川さんはいつも自分の軸でお話しされて、それがずっとブレていない。他者の意見に左右されていない印象を受けます。

M.Ikawa

そうですね。常に心がけているのは、自分の頭で考えて、自分の頭で判断するということです。だからそれが他の人から見たら、軸がぶれてないように見えるかもしれませんが、自分の中では変化していることもありますよ。
ただ“自分の頭で考える”っていうことはつまり、さほど人の目を気にしていないとも言えます。本来、人目をとても気にするタイプなんですけれども、それは一つの判断材料であって最終的には、“本来どうあるべきか”ということを選ぶ努力はしています。結果としてそうなっているということですね。正しい方向を選べているかどうかなんて、わかりませんけどね。正しい方向を選んでいたら、博打で100億負けてないですからね(笑)。

AK

自分の頭で考える、というのは大王製紙創業家の長男として育った、幼少期から培ったものなのでしょうか。

M.Ikawa

父がそういうタイプでしたからね。意識してとかではなく “天性”で、自分の頭でしか考えないタイプ。もちろん人の意見は聞くんだけれども、むしろ人の意見を聞いたら人の意見に反発するタイプの人間だったんですよね。全く聞かないということではなくてね。
そういう人間が間近にいて、背中を見て育ちましたし、また、父は私の流されやすい弱い部分に対しては、厳しく叱責をするような人間でしたから。ですから、私の場合、自分の頭で考えるということは天性というよりも、環境の中で身につけることができたのかなと思いますね。

AK

上場会社の会長から収監まで、人生の紆余曲折を体験された井川さんですが、今はメディアへの露出等を通して歯に衣着せぬ物言いでひっぱりだこですよね。ピンチはチャンスとよく言いますが、大変な経験をしたからこそ人間は強くなれるように思います。困難な局面に対峙したときの対処法ってあるのでしょうか。

M.Ikawa

それはね、あんまりないんですよね。
ずいぶん昔ですけれども、まだ起きてもないことにくよくよ悩むのは人間だけだと何かで目にしました。
私もそう思いますね。心配してもしょうがないと思えるケセラセラ(que será, será 「なるようになるさ」にあたるスペイン語)が私の中にはありますね。明日のことは明日考えよう、起こってないことは心配してもしょうがないっていう能天気な性格が若い頃に形成されていましたし、自分の頭で考え自分の頭で判断するっていう観点から言うと、「起きたことはその場で最善の対処を考えればいいや」っていう習慣が身についちゃったんでしょうね。
もう半世紀以上人生を経験してきて、これは長年かけて形成された性格かなと思います。
よく、「事件になって特捜に逮捕されたり、刑務所にいくとき、どんな気分でしたか」という質問をされますが、当時の心境の半分以上は、「これから何が起こるんだろうってことを楽しもう」という思いでしたから。(事件にならなかったら)製紙会社の経営者を今でもまだやっているのかと思ったらゾッとしますね。
紆余曲折ありましたけど、間違って間違ってぐるっと1周回って…私としては今が一番居心地の良いポジションにいるのかなってそんなふうに思っていますね。
人の目を気にしたくない自分がやりたいことをやりたいと思っても、やはり上場会社の経営者、トップという立場があると、自分のことはともかくとして、会社や従業員に迷惑をかけちゃいけないと思っていましたから。
最終的にすごい迷惑をかけてしまったんですけれど、迷惑をかけた後そのポジションを外れたので、今、本当に自分のやりたいことをできるっていうことには非常に満足していますね。人生一周ぐるっと回って、一番ハッピーなポジションにいるのが今の自分です。

物心ついたときからメタ認知をしていた、そんなタイプです。

AK

そうやって思えると一番強いというか、無敵な気がします。
井川さんは自分自身を俯瞰でご覧になられている印象があります。常に客観的視点をお持ちというか。

M.Ikawa

そうですね。それは割と、物心ついたときから何かそんなタイプではあります。
そういう、常にメタ認知をする人って他にもいるみたいですね。知人でも、「俺もそうだったんだよな」っていう人がいますので。
例えば作文を書いている自分を見てる自分がいるとかですね、そういった意識は小学校ぐらいの頃からあったかもしれませんね。当時はメタ認知という概念は知りませんでしたが。

AK

私の尊敬する作家の一人が三島由紀夫なのですが、彼の小説やエッセイを読んでいても同じ感想をもつんです。
割腹自殺という彼の結末も、本人の小説の中にすでに書き込まれている。それは自分を俯瞰でみないとできないことだと思います。
「俯瞰でみる」という点で井川さんと三島に共通点を感じ、そこで今回の撮影の裏テーマに三島由紀夫のイメージを投影しました。裏テーマといいつつ、言ってしまいましたけれど。

M.Ikawa

三島は私も好きな作家です。読んだのは高校〜大学の頃ですから細かい内容だとか、ストーリーも忘れてしまってるのがほとんどなんですけれども。
彼と私を一緒にするなんてちょっとおこがましいですが、メタな自分がいて、結局メタな自分から見たら、自分自身が一つのドラマの構成要因というか、それが『豊饒の海』四部作と市ヶ谷での自衛隊司令部突入と、割腹自殺っていう形で自分の人生までを作品として仕上げてしまったという。自分の命まで賭けて。
彼は自分自身を神の手駒の一つとして、美しい作品として完成させたいと思ったんでしょうね。彼ほど耽美主義的な小説を書いた人間もいないと思いますから。そういう意味で言うとその行為が美しいってよりも、そうやって自分の命までもその一部としてしまう「作品」を美しい芸術だと彼は思っていたんじゃないかなと思いますね。

AK

造詣が深いですね。学生時代に三島由紀夫さんの作品に出会ったきっかけを教えてください。

M.Ikawa

中学高校大学も含めて、古今東西の有名な書籍、小説はできるだけ目を通したい「活字人間」だったんですね。漫画もよく読みましたけど。
そんな中で当然日本文学で言えば、三島は外せないわけです。
まぁ、日本文学でよく言われている有名な作家は太宰治がいるわけですが、小説を読む前に太宰とはこういうものだと書いてある書評だとかを読んでみて、結局一つも太宰の作品を手に取らなかった。一言でいえば私はうじうじした感じが嫌いだったんですよ。合わないと思って。やっぱり自分が面白いと思いそうにもないものを読んでもしょうがないですからね。
それに対して三島は、まず東京大学法学部卒というキーワードが気になった。当時私は高校生で東大法学部を目指していたこともあって、何か参考になるかもしれないなっていうのと少し親近感を持ったということですね。そこから彼は、大蔵省(現・財務省)に行ってすぐに辞めて作家になるわけですけれども。彼の文章っていうのはもうひらがなと漢字の比率一つとっても、美しさを求めた非常に美意識の高い作家、人間であるということに興味を惹かれたんですよね。
それまで私は受験生らしく几帳面に“同一文章において漢字で表記した言葉は次も必ず漢字で表記する”という統一性にこだわっていたんですけれども、三島は違うと。ここでもう1回漢字にしちゃうと漢字が多くなってうるさくなるから、そこはあえてひらがなで表現するんです。
私が書いているメールマガジンや、たった140字のツイッター(X)でもその辺りを意識して書いています。そういう意味で結構、三島の影響を受けているなと思いますね。

私の人生は「失敗ばかりだけれども後悔はない人生」

AK

「人生旅であり、生きることは冒険」というADVENTURE KINGの信条にかかわる質問を。井川さんの今までの人生の一番の冒険と、今後挑戦してみたい冒険を教えて頂けますか。

M.Ikawa

「人生は冒険」というフレーズにすごく共感しますね。
私の人生自体が普通の人から見たらかなり冒険で、行きすぎて一度崖から転落しているくらいですし。しかしながら、それも含めて“冒険”だと思っているところもあります。
先ほども言いましたけれども、東京地検特捜部に逮捕されて拘置所に拘留されている間も、あるいはそのあと喜連川刑務所にいるときも、それはそれで「これからどんな世界が見えるんだろう」という好奇心がいつもありました。塀の中の世界なんて普通じゃ体験できませんから。
YouTubeを始めたのも、やはり遅まきながら「こっちをやったらどんな体験ができるのかな」っていう冒険心からきています。私ももう人間の寿命の半分以上過ぎてしまっているわけでして、今はモノの所有とか保持っていうことに対しての興味はほとんどなくなっているんですよ。若い頃は人並みにブランド物欲しいなとか…それこそ私は車が好きなもので、フェラーリやポルシェとか並べたこともありますけれども、お金や物なんてあの世へは持っていけないわけです。だったら生きてるうちに、いろんな楽しいこと、辛いことも含めて、たくさん経験したいなと思っています。生まれてくるときはゼロで生まれて、死んでしまうときもゼロだというのはよく言われることです。失敗のない手堅い人生を選択して、たとえば生まれて0から1になって、その1をキープして、最後にまた0に戻るというのではもったいないないと思うんです。私は超ラッキーで、1どころじゃないところからスタートして、でも自分のヘマでマイナスまで行って…このジェットコースターみたいな変化率こそが楽しいんじゃないかなと。生き方を遊園地の一日券をどう使うかに例えた話があるんですが、せっかく遊園地に入ったのにアトラクションに並びたくないとか、ジェットコースターは怖いからって言って、ゲートのすぐ横のカフェで一日中コーヒー飲んで日が暮れて「はい閉園」っていう人生と、たくさんアトラクションに乗ってワーキャー言って、水しぶき浴びながらでもいろんな経験をして、それで閉園を迎える方が人生としては楽しいんじゃないかな。そういう点でADVENTURE KINGの「人生は冒険」っていう考え方に非常に共感しますね。

AK

最後に、井川さんのこれまでとこれからの人生を表すならどんな表現が当てはまると思われますか。

M.Ikawa

ご存知のとおり、私にはいろいろなことがあったものですから、私のことをそんなによく知らない人間だとか、取材者が「あのときこうしておけばよかった、と思うことありますか」とか「やり直すとしたらどうしますか」なんて聞かれることがあります。
私は「あのときに戻りたい」だとか「あのときこうしておけばよかった」なんて思わないんですよ。
子供の頃から常に「昨日よりも今日、去年よりも今年の方が楽しい。幸せだ」と思って生きてきた能天気な人間ですから、現在こんなに楽しい日々を送れているということはつまり、普通に考えたら失敗だって思うことも含めて、“それがあったから今がある”ということなんです。
ちょっと偉そうなことを言わせてもらうと、「過去の事実は変えられないけれども、過去の意味は変えられる」と、こう思っていますので、私の人生は「失敗ばかりだけれども後悔はない人生」。これからもその延長線上で、昨日よりも今日の方が楽しかった、楽しいなって思えるような人生を目指したいですね。

『まことに人生はままならないもので、生きてゐる人間は多かれ少なかれ喜劇的である』(三島由紀夫)

ADVENTURE KINGが過去にインタビューした冒険野郎が「世間に波風を立てる人こそ人生に挑戦している」と教えてくれたことがある。

なるほど、私が尊敬する人々を思い浮かべてもやはり彼らは世間に波風を立てている。

今回インタビューした井川意高氏もその一人だろう。

自分軸で自分らしく生きられている人がこの日本にどれだけいるだろうか。

人と違うこと、目立つことを恐れることなく、自分だけの、一度きりの人生を全うすることが、我々が生まれもってきた使命なのかもしれない。

さぁ、今からでも遅くない。冒険を重ねて、人生をカラフルに彩ろう。

ワクワクする気持ちが僕らの一番の原動力なんだから。

今回も大切なことに気がつかされた。

井川意高 (Mototaka Ikawa)

大王製紙元会長。
youtube channel 『井川意高が熔ける日本を斬る

 

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