TRAVEL

Vol.1
星野リゾート代表 星野佳路

〜2021年以降の日本観光産業「豊かな風土を持つ日本、視点を変えると観光資源は無限にある」〜

2020年、世界を襲った未曾有の非常事態。未だ終息の兆しを見せない新型コロナウイルスは、経済や人々の生活様式を大幅に変えつつある。いままで当たり前だった海外旅行はもはや遠い昔。日本国内の移動にさえも高い意識が必要とされるのだ。
しかし、「人生の冒険」をテーマに掲げる、我々『ADVENTURE KING』は、人はどんな状況でも「人生に挑戦すること」「新しい刺激を得ること」が不可欠だと考える。
いわずもがな、「旅」はその一つの大きな要素である。

そこで、日本の旅行業界に数々の風穴を開けている企業、星野リゾートとADVENTURE KINGはフリーマガジン時代に展開していた『ADVENTURE JAPAN』をパワーアップして再開することで合意した。いまだからこその「安心安全な旅、日本の良さを再確認する旅」の提案を開始する。
初回は、自らも人生の冒険者であり、旅をこよなく愛する星野佳路代表に話を伺った。

Interview, text: Makiko Yamamoto
Photo: Taro Washio

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ADVENTURE KING編集長 山本(以下:Yamamoto)
まだ自粛ムードを感じる現在(インタビュー時7月初旬)ですが、コロナ前と後では客層など変化はありましたか。

星野リゾート代表 星野氏(以下:Hoshino)
ロックダウンの期間に閉鎖していた施設も多く、6月半ばに再開したばかりなのでまだ統計が出ておらず、お客様の層に関しては具体的に何とも言えませんが、予約状況だけで言えば、あまり変わっていないようです。カップル、ご家族など以前と変わらず皆様にご予約いただいています。
特に若い方は旅に出るのをあまり怖がっていないように見えますし、ご年配の方々は温泉旅館など個室で過ごすように注意しながら旅をなさっている印象です。
昨年旅行をされていない方々は「今年は旅行しない」とおっしゃっているし、昨年旅をされた方は「やっぱり旅がしたい」となるんですよね。
ただ、“選び方”が変わってくるという感じだと思いますね。
お客様はかなり注意して、慎重に旅先と宿泊施設を選ばれています。

Yamamoto
今回、栃木県にある界 川治、界 鬼怒川、リゾナーレ那須の3施設をすでに取材させていただいているのですが、駐車場は満車でした。私たちも車で伺ったのですが、近隣の窯元や観光地に立ち寄ることもできたのでこれからは車の旅もいいなと思いました。しばらくは公共交通を心配される方も多いと思いますし。

Hoshino
自家用車での旅は、旅に迷いのある層にとても人気ですよ。やはりすぐに帰ってくることができるし、不特定多数の人と接することが少ないからでしょうね。

Yamamoto
『ADVENTURE JAPAN』をキッカケに国内を再発見することをアドキンの命題の一つとしているのですが、京都、栃木とすでに取材をさせていただいて、たくさんの発見と刺激がありました。「日本に住んでいながらこんなにも日本のことを知らなかったのか」と。まさに灯台下暗しでした。そして知れば知るほどワクワクしますし、何よりも自分の国だからこそ、なんだか誇らしい気分になるんですよね(笑)。

Hoshino
それでいうと、日本は、北海道から沖縄まで縦に長いからこそのバリエーションがあるんですよ。異なる自然、文化があって、そこにまた四季が加わるでしょう。春夏秋冬、違った景色をみることができる。つまり違った旅を提案してくれているわけです。それが他の国とは劇的に違うところですよね。

Yamamoto
特に星野リゾートでは、ご当地の文化を体験できるたくさんのアクティビティを用意されていますよね。北海道ではスキーや、沖縄ではシュノーケルまで。

Hoshino
そうですね。まさにアドベンチャーキングにピッタリですね(笑)。
たとえば、今度行かれる沖縄の離島3施設(星のや竹富島・リゾナーレ小浜島・西表島ホテル)は同じ沖縄でありながら、琉球文化にフォーカスしていたり、自然にフォーカスしていたりと目線を変えて提案しているんです。
他の土地でも同じことが言えますね。青森で言えば奥入瀬渓流ホテルと青森屋は全く異なるプレゼンテーションですし。
そういった違いをぜひ旅を通じて楽しんでいただけたらと思います。

Yamamoto
それはとても興味深いですね。
アドキンの過去9年の中で、海外含めたくさんのリゾートやホテルを取材させていただいてきましたが、星野リゾートほど「土地」と寄り添ったリゾートと出会ったことはないと思います。まぁ私の少ない経験値からの意見ですが……。
星野リゾートでは、一連の滞在の中で、部屋や食事、アクティビティなどあらゆる場面でその土地の文化を感じることができますよね。まるでその土地に暮らすように泊まることができるというか。
あらゆるアクティビティがあるので、リゾートを通して土地を垣間みることができて非常に満足度が高いです。

Hoshino
ありがとうございます。
ビジネス的な面で言えば、それらアクティビティは集客と結びつけながら生み出された部分も多いんです。
一年間を通して集客をするということはとても大変なことです。
ご存知の通り、日本には旅のオンシーズンとオフシーズンがありますよね。
「いかにしてオフシーズンにも皆様にご利用いただくか」それは我々の経営にとって非常に大切なことです。
そこで、オフシーズンを一週間単位で観察していき、「この施設はこの週が弱いな」となると、翌年の同週にはイベントを企画する、そんな感じで組み立てているんですね

Yamamoto
なるほど!

Hoshino
そうしていくと、前の年よりも業績が上がるんですね。最終的には年間を通してしっかり埋まる、そういった考え方をしています。

Yamamoto
!!(感嘆)

Hoshino
施設によってそれにかかる時間は違いますけれどね。トマムにおいては、時間はかかったものの、ここ7〜8年は一番業績がいいですからね。

Yamamoto
そうやって業績をあげていくことで、「星野リゾートがあるから行こう」というように人が集まり、最終的には地方の活性化に繋がりますよね。

Hoshino
まさに、それは一番大きな効果ですね。
トマムは北海道の占冠(しむかっぷ)村にあるのですが、日本全国の人口増加率がトップだという統計が出ています。
地方の村で人口があれだけ増えているというのは他にはないんですよね。
それは星野リゾート トマムがあるからなんです。
トマムで私たちがスタッフを増やし、スタッフや家族によって土地の人口が増え、小学生などの生徒の数も増えてきました。
同じことは竹富でも現在やっているところです。
僕が竹富に行った10年ほど前には300数十名の人口でしたが、現在は400名に迫っています。人口減少が著しい離島の活性化の一助にいかになれるかと考えています。

Yamamoto
そういった運営体制をされているからでしょうか、私の周囲でも星野リゾートラバーが非常に多くいます。星野リゾート全施設を回っている方々です。
私も実際に数々泊まらせていただいて思うのは、そういった“星野リゾートラバー”たちは、一貫したホスピタリティや、今回のコロナで言えば「三密回避」の施策など、星野リゾートならではの「クオリティと安心感」を求めているのではないかと思うのです。

Hoshino
そうですね。土地によって施設の趣はことなりますが、スタッフには統一感があるんです。
新卒採用して、トレーニングして、現地で活躍してもらうわけですが、スタッフはみんな元々観光が好きなこともあって「土地の魅力」への探究心はとても強いですね。
たまに土地に魅了されすぎて、会社を辞めて地方貢献にシフトするスタッフもいるくらいです(笑)。「日本酒を世界に広めたい」なんて飛び出していったスタッフもいましたね。

Yamamoto
土地愛が強すぎて!(笑)
ものすごく俯瞰でみると星野リゾートの教育で育った方が日本に貢献しているわけですもんね。素敵なことだと思います。
最後に、星野さんが今後の日本の観光産業に関してどう思われているのかお聞かせいただけますでしょうか。

Hoshino
まず一つ、今注目しているのは「地方都市が観光地になる」可能性です。
日本の方にとっては、“観光地”がその都市を訪れるキッカケになっていたと思うのですが、コロナ終息後の未来、これからは世界の方々がいらっしゃる時代ですよね。
そうなった場合、「“地方都市”が“観光地”になる」と思うんです。
その“都市”を訪れること自体が目的になるということですね。
そこで、「OMO(おも)」という都市観光ホテルを立ち上げました。ビジネスマンでなく観光客をターゲットにしており、いま(2020年7月現在)は旭川と東京大塚、東京川崎ですが、それを地方都市に展開していきたいと思っています。
函館だったり、金沢だったり、その“都市”自体がとても興味深いんですよね。
人がいるだけ文化がある。
温泉地や大自然などの観光地とは違った面白さがあるんです。

Yamamoto
「都市ごと観光」というコンセプトですね。
それは新しいです。

Hoshino
はい、そして今後の可能性のもう一つ、それは“自然観光”というキーワードです。日本は文化観光は得意ですが自然観光は今ひとつ、伸びていないんですよね。
日本には34もの国立公園があるのに、外国人にはおろか日本人にもあまり知られていない現状があります。
ですから今後はもっと自然観光の力をつけていく、それが日本の旅を面白くするということだと思いますね。
例えば、サンフランシスコは、近隣にナパヴァレーやヨセミテ国立公園がありますよね。そういったように文化観光、自然観光をセットにしたアピールをすることが大事だと思いますね。
そういった点からも、まだまだ日本の観光資源の可能性はたくさんあると思いますよ。

星野氏が日本の観光・宿業界に起こしてきた数々のセンセーションは我々も記憶に新しいが、いまこの瞬間も先を見据えて異なる視点から日本の資産を見つめているのには強く心を打たれるものがあった。
世界的に悲壮感が漂い、日本でも経済的に悲しいニュースを耳にすることが多い昨今、常に光を見て新たな挑戦をしつづける星野リゾートには我々も勇気づけられるのではないだろうか。
そして、そんな生き方こそ、この時代を生き抜く最善の策であり、緊急時でも平時でも、我々ADVENTURE KINGが提唱しつづけている生き方なのである。

Profile:Yoshiharu Hoshino

1960年生まれ。長野県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年、星野温泉(現・星野リゾート)社長(現・代表)に就任。現在の運営拠点は、ラグジュアリーリゾート「星のや」、温泉旅館「界」、リゾートホテル「リゾナーレ」、都市観光ホテル「OMO(おも)」、ルーズに過ごすホテル「BEB(ベブ)」の5ブランドなど国内外で43か所に及ぶ。趣味はスキー。

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