COLUMN

LIFE IS A JOURNEY #010

Shogen

「冒険心を忘れない」そう誓ったギリシャの旅

撮影で6週間ほどブルガリアに滞在していた僕は、みんなより早くクランクアップしたので、一人の時間を求めて少し遠出をすることにした。

セルビアやマケドニアの甘い響きにも惹かれたけど、村上春樹さんのエッセイ『遠い太鼓』を読んで訪れてみたかったギリシャを選択。飛行機を調べてみると、ハイシーズンな上に直前の予約だったのでかなり高額だった。

撮影の疲れも残っていたし、一週間も滞在できないから次の機会にしようかなと諦めかけた瞬間……。
「ちょっと待てよ。若い頃の自分だったら、きっと衝動に任せて行動していたはずだ」という思いが頭をよぎり、その日の内に旅立つことを決めた。
必要最小限の物だけをリュックに詰め込み、宿からタクシーを飛ばして、なんとかアテネ行きの最終便に間に合った。

Jeff Beck, Rod Stewart – People Get Ready (Official Video)

いわずと知れたCURTIS MAYFIELDの名曲。旅情を感じる時、僕は自然とこの曲を口ずさむ。JEFF BECK×ROD STEWARTのバージョンもいいが、ハナレグミ永積さんがカバーした日本語詞の切なさも好きだ。

遠ざかるソフィアの街並みを眺めながら、高鳴る胸の内で、この曲が流れていた。

People get ready
There’s a train a-coming
You don’t need no ticket
You just get on board

その数時間後、南国生まれの僕が見たこともないような「碧」色と出逢うこととなる。
ギリシャは観光地だけでなく、失われた記憶の気配を漂わせた、名もなき路地を歩くだけで満たされた気分になれた。
車が一切無くて猫が多いという理由だけで選んだイドラ島は、一人で過ごすにはロマンチックすぎるほどの美しさだった。

All you need is faith
To hear the diesels humming
Don’t need no ticket
You just thank the Lord

いくつ歳を重ねても、若かりし頃の冒険心は失わないようにしよう。
エーゲ海に沈む夕陽を眺めながら、そう、自分に誓った旅だった。

尚玄

Profile:尚玄

沖縄出身。大学卒業後、バックパックで世界中を旅しながらモデルとして活動。2004年に帰国、俳優としての活動を始める。05年、映画『ハブと拳骨』でデビュー。08年にNYで本格的に芝居を学ぶため渡米。『Street Fighter 暗殺拳』、TV版『デスノート』など、現在は日本と海外を行き来しながら邦画だけではなく、海外の作品にも多数出演。フィリピンの鬼才 ブリランテ・メンドーサが監督した主演作『Gensan Punch 義足のボクサー(仮)』が公開を控えている。

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