OVERSEAS

Gastronomy in Madrid Vol.4

マドリードに息づく、伝統への敬意

厳選された二つの名店が描く料理の原点

マドリードの食文化は、革新と伝統という二つの潮流の融合の上に成り立っている。街の最も洗練されたビストロやガストロノミックレストランが未来を語る一方で、根幹にあるのは伝統料理への揺るぎない敬意である。今回訪れた二つの名店は、その対照的なアプローチを通じて「古き良きスペイン料理」がどのように現代の食卓で輝きを放っているかを示している。

Photo, Text; Makiko Yamamoto

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Ramón Freixa Tradición

伝統を現代に紡ぐ、熟練の技

サラマンカ地区の一角に佇むこの店は、スペイン料理の伝統を現代の文脈で再解釈する場として確固たる地位を築いている。スペイン料理界を代表するシェフ、ラモン・フレイシャ(Ramón Freixa)が掲げるコンセプトは明快だ。祖先の味、家庭のレシピ、土地の素材──これらを尊重しながら、細部にまで精緻な技術を注ぎ込む。

ラモン・フレイシャは、バルセロナ近郊のカステリョリット・デ・リウブレゴス出身。家族経営のレストランで育ち、早くから料理の道を歩んだ彼は、ミシュランの星を獲得するキャリアを積み重ねてきた。2009年に開業したRamón Freixa Madridでは開店直後に1つ星を獲得し、同店は2010年に2つ星に昇格。以降、スペイン料理界を代表する存在として国際的にも評価されている。

Ramón Freixa Tradiciónという名が示す通り、このレストランは「伝統=Tradición」を敬う実直な料理を基盤としている。調理は、クラシックなレシピに忠実でありながら、現代的な素材選びと技法によって磨き上げられる。たとえば上の写真の皿、スペインの伝統的イワシのオイル漬けだが、ここでは紙のように薄く切ったバターを忍ばせることで、酸味を和らげ、味に奥行きをもたらしている。

このように一皿ひと皿は、たとえば祖父母の台所を思わせるパンの香りや、田舎の煮込みの深い味わいを想起させるものでありながら、同時に皿上の構成は均整が取れている。こうした料理哲学により、レストランはミシュランガイドにセレクトされ、成熟した伝統料理を提供する場として評価されており、マドリードで必ず訪れたいレストランの一つであることは間違いない。

Taberna Pedraza

素朴さを極める、食の記憶への回帰

一方、サラマンカ地区に新たに拠点を構えるTaberna Pedrazaは、伝統料理をより素朴に、かつ深い場所から引き出すことで知られている。店の中心人物はサンティアゴとカルメン夫妻であり、2014年に創業した当初から、一貫して「本物の味」への探求を掲げてきた。

Taberna Pedrazaは料理に対してストイックである。厨房は客席から見えるよう開かれ、そこでシェフが素材と向き合う姿が日常の風景となっている。看板料理のひとつが、三段階で出される「コシード・デ・カルメン(El Cocido de Carmen)」だ。

まず澄んだブロスを味わい、次に柔らかいペドロシジャーノ種のヒヨコ豆と野菜、最後に肉とチャルキュトリーをじっくりと時間をかけて楽しむ構成は、単なる煮込みを超えた「食体験」として評価されている。

Taberna Pedrazaはミシュランガイドの推薦に名を連ねる伝統料理の名店として認識され、観光客や地元の食通からも高い支持を受けている。

マドリードの伝統料理は、革新の裏側にあるもう一方の柱として、確かな存在感を示している。 Ramón Freixa Tradiciónは、技術と記憶を重層的に統合する場として、現代の食ガイド上位に位置する一方、Taberna Pedrazaは、素直な素材と料理の根源に戻ることで食文化の深みを浮かび上がらせている。 いずれも料理の根本に立ち戻りながら、マドリードという都市の記憶と日常の味覚を鮮やかに描いてみせる。

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